125のスクータ2016年06月30日

一番多いときは三台のバイクを持っていた。
ちょっとアクセルをひねれば、車なんかとは次元の違う加速をするバイク。
全身で乗るその感覚は、まさに「人馬一体」
すこし峠道を走っただけで、冬でも汗をかいたものだ。

でも少し前から、バイクに乗るのが怖いと感じるようになっていた。
18歳の時にバイク事故で大怪我をして半年入院した。
あの時だって、バイクが怖いなんて思ったことは無かった。
それが何と言う事か。
もう高速も峠も楽しめない。
手に汗にぎり、無事に家へ帰りつく事だけを願うヘナチョコぶりだ。

だから車検を言い訳に一台減らし、任意保険切れを逃げ口上にもう一台も売った。
そして最後に残った125ccのスクーターの自賠責が来月切れる。
コイツは去年から一度もエンジンを掛けていないんだ。
もう良いか、と思った。
もう売ってしまおう。

一年ぶりにセルを廻すと、一発でエンジンは掛かった。
ホースの水を掛け、スポンジで洗うとピカピカと光った。
ヘルメットをかぶったら、何だか少し嬉しくなった。
買取店へ向かう前に、一回りしてみよう。

両親の墓に参り、ラーメン屋に寄り、建築中の友人宅を偵察に行った。
車では入れない狭い路地、大通り沿いの駐車場の無い店、渋滞の甲州街道。
どこへ行っても、コイツなら快適だ。
原付と違って30キロ制限もなく、二人乗りもでき、小回り利いて燃費も良い。
そうだ、125ccのスクーターとはそういう乗り物だった。
手放した大きなバイクとは違う。
このスクーターはまさに足代わりの道具だ。

結局買い取り店には行かず、また自宅の駐輪場に置いた。
でも今までと違うのは洗車され綺麗になっていること。
少しメンテナンスして完調jになっていること。
そして何より僕がまた、これに乗ろうという気になっていること。
速いだけがバイクじゃない。
この小さな125には、それなりの魅力が有ったんだ。