2006/82006年08月30日


          


 

06/8/31 (木)  オミナエシ咲く

晴れ時々曇り。
最高気温31度。 湿度が低く過ごしやすい日。
どこからやってきたのか、トンボの群れが乱れ飛ぶ。

朝、チョロQでMを迎えに行く。
午後の遅い時間から映画を見るのだけれど、それまで日頃できない雑用を済ませる事にする。

畑の様子をMに見せ、落花生やサツマイモが出来たら子供達と収穫に来ようと言う話しをする。
アチコチと買い物。
秋蒔き大根とカブの種、Mの息子の工作宿題用の材木、チョイノリ整備用のグリス、本屋で文庫を数冊、
新学期用に雑巾を数枚、夕飯用に食材をあれこれ。

その後、Mの服を見に行く。
9月に職場関係の結婚式に出席しスピーチすると言うからだ。
ビーサンと半パンとTシャツという僕の出で立ちが激しく不釣合いな某お店。
少し緊張しながら、試着室から出てきては見せるMのフォーマルな様相を楽しく眺める。
彼女は普段、ジーパンとTシャツでどこにでも行ってしまうタイプの人なんだ。
僕も服や化粧には余り興味が無いと思っていたのだけれど、たまにキチンとしたMを見るのはやはり嬉しい。

店員さんの媚び甘口と度々の僕に対する「ご主人」と言う言葉に正気を無くし、
相場を知らない僕にはちょっとビックリするような値段だったけれど、誕生日にまだ何もあげていなかったのでプレゼントする事にした。


TOHOシネマズは中々快適な映画館で、特にここのプレミアスクリーンに有るペアシートが良い。
寝そべる事が出来るほど大きな2人掛けのベンチシートで、パーティションで隔離された空間は他の客の存在を忘れさせるほどだ。
チョロQの運転をMに任せた僕は、生ビールとナチョスを持ち込み、サンダルを脱いで自宅にいるかのごとく寛ぎながら映画、MiⅢを見る。
至福の時。
あっと言う間の2時間。




すっかり陽が短くなった夕方の時間、Mの運転での帰り道、南天に綺麗な半月を見る。
玉川上水の道端でオミナエシの花が咲く。
オミナエシは女郎花と書くのだと、遥か昔に祖母に教わったっけ。
毎年、夏が終わる頃に目につく黄色の花だ。
信号待ちでぼんやりとその花を見ていたMが、もう秋だねと言う。


   


夜はまたニガウリを食べた。
今夜は発作的思い付きでジャコと炒めて見たのだけれど、酒の肴に素晴らしい出来。
この夏もたくさんのニガウリを食べたな。
もう、そろそろ収穫は終わり。
秋には秋の美味しい野菜をたくさん食べよう。

明日から新学期。
自分が子供の頃だった当時の8月31日を思い出しながら酒を呑んだ。
長く永遠に続くかと思われた夏休みが去る、最後の夜。
僕は、何を考えて過ごしていただろう。

 


 

06/8/30 (水)


曇り時々雨。
朝、ベッドの中でウトウトとしていて開いた窓から聞こえる秋の虫の声を聞くともなしに聞いていた。
5時半。
眠りと覚醒の間で、気持ちの良い浮遊感を味わう。

今日は休み。
しかも、自分のためだけに一日を使える日だ。
遅くまで眠っては勿体無い。
7時には自宅を出、畑へ向かった。

みっちりと畑作業。
チョロQにネギ、ラッキョウ、ブロッコリの苗と牛糞50キロを積み埼玉の畑へ向かう。
本当にこの車を買ってよかった。
こんな用途に大活躍するばかりか、小さく取り回しの良い車体は普段のちょっとした足にも最適だ。

昼に久しぶりに素麺を茹でる。
この夏、いや今年になって初めてか。
シソ、ショウガ、ミョウガを沢山入れた素麺をすすり、改めて素麺と言うものの美味さを再確認する。
夕飯に素麺は食わぬし、昼はラーメンになってしまうことが多いので忘れていた。
素麺とは、こんなに美味いモノだったんだ。
たくさん買ってしまったし、これから暫く休みの日には素麺の日々が続きそうだ。

午後、車の整備と工具の整理。
念願の大きな工具入れを買ったので、散逸しつつある工具たちををまとめて仕舞う。
犬と存分に遊び、昼寝をし、ユニクロで安物の作業用ズボンを買い、酒屋に顔を出し、近所を散歩し、商店街の八百屋で野菜をチェックする。
撮り溜めたHDDレコーダーの中身をDVDに移し、デジカメの写真を整理し、本棚の本を並べなおす。
良い休日だ。

   

夕方からまたジム。
2時間ほど汗を搾って帰宅。
冷えたビールを呑みながら、酒の肴を作る。
今夜は、秋刀魚焼き、ジャガイモサラダ、焼き海苔とシラスおろし。
そして冷奴のモロヘイヤかけ。
モロヘイヤはここ数年、畑の一角で必ず作っているのだけれど、汁の実にしても良し、納豆や鮪とあわせても良し。
こうして豆腐に掛けて食べるのも良し。
ツルっと喉越し良く食べやすく、癖の無い味は酒の肴に最適だ。

今、22時。
そろそろ冷えた吟醸を開ける頃合だ。

 

 

 

 


 

06/8/29 (火) 向日葵

昨夜、Mと電話で喧嘩をし、その険悪な雰囲気を引きずったままベッドへ入ったからか4時半に目が覚める。
夜から朝へと移行する朝まずめの時間。
窓を開けて、何となくボンヤリと外を見る。
エンマコオロギの鳴き声を今年初めて聞いた気がする。
薄明の中、東の空に冬の夜空のシンボルであるシリウスを探したけれど見つからないままに朝になる。

職場最寄の駅まで自転車、そこから歩きで出勤。
これは自転車で直接職場まで行ってしまうと運動量が足りないために考えた苦肉の策だ。
こうすると往復で自転車11キロ、徒歩5キロとなり良い感じに体を動かす事が出来る。

出勤時の東京の気温は28.5度。
職場に着く頃にはジットリと汗をかいていた。
自由に使えるシャワーが有るのだけれど、何となく気が引けて使ったことは無い。
上半身裸になってウエットティッシュで汗を拭き、シーブリーズで仕上げて一息つく。
汗が引くまでエアコンを最強にして、それからようやく仕事を始めるのだから、この時期の自転車・徒歩出勤は効率悪し。
それでも、季節のうつろいを肌で感じられる自転車・徒歩出勤は気分が良く、長く続いている。

   

昼休み、緑のたぬきを3分で食べた後、売店で買った「ガリガリ君」を齧りながら職場周辺を散歩。
気温は32.5度。
久しぶりの青空。
白い雲がキラキラと光り美しい。
立ち寄った児童公園で、僕の背より高い向日葵が力強く咲く。

ああ、嬉しい。
僕はこの向日葵と言う花が大好きなんだ。
自宅の花壇ではとっくに終わってしまった向日葵の花。
これを間近に見、触っただけでも昼の散歩に出た甲斐が有ると言うものだ。
ベンチに座って向日葵を見ていたら、なんだか眠たくなってしまった。




夜、いつもより少し遅い時間にスポーツジム入り。
2時間ほどかけて、自分の体をイジメる。
大腿四頭筋を集中的に鍛えていたら足がつってしまい、それを潮時にやっと退散。
自分だけの世界に没頭できるジムでの時間は居心地が良い。
体中の水分を搾り出し、カサカサになって23時に帰宅。

畑から取ってきたモロヘイヤと納豆、オニオンスライスと焼き海苔を並べ、冷の純米酒を飲む。
明日は休み。
それも特に予定の無い1日が待っている。
車いじりをしても、畑を耕しても、昼間から大勝軒でビールを飲んでも良いのだ。
そんな1日を1人で過ごすのも良いだろう。

風が出てきたのか、南部鉄の風鈴が軒下でリンと鳴る。
明日は大気が不安定で山沿いでは雷の予報。
ここ、武蔵野でもにわか雨が降るかもしれない。

 

 


 

06/8/27 (日)  酒の会で酔う


   


庭の一角で、ホウズキが赤く染まる。
今年は色づきが遅く心配していたけれど、見事に染まってくれた。
薄暮の時間にその一角を見ると、まさに鬼灯提灯のようにボンヤリと周囲に色を放っている。
小鬼が持つ提灯と言ったところか。

僕はなぜか子供の頃からホオズキが好きだった。
外皮を破ると出てくる朱の小玉をコロコロと掌にのせて遊ぶのが好きだった。
そして、今でも同じ事をして笑っている。

曇り時々小雨。
最高気温は30度に届かず。
この先数日、この様な天気が続くと言う。
今年もまた、夏が往こうとしている。




土曜は酒の会に参加。
某マンションの一室で行われたその会は、酒作りに携わる蔵の方の話しを聞きながら酒を呑むと言う楽しい会。
今回は奈良県御所市の名門蔵の杜氏さんを、僕ら素人たった5人が囲むという贅沢な会だ。

わざわざ奈良から持って来て頂いた貴重な酒と、Nさんの奥様特製の素晴らしい料理を堪能しながら、
普段は聞く事の出来ない酒蔵の話しを目を丸くして聞く。
2時間の予定が終わって見れば5時間以上。
たくさん笑って、ほど良く酔って、素晴らしく楽しい会だった。

でも、上品に終わらないのが僕の常で、その後幼馴染と駅前の中華料理屋さんへ流れ、
深夜まで餃子だあ紹興酒だあネギチャーシューだあビールだあ仕上げにラーメンだあと騒いだのだった。



少し二日酔いの日曜日。
朝6時に起き、シャワーで目を覚ます。
今すぐ家を出れば、出勤するMを待ち伏せ出来るとほくそ笑み、新座の畑へ向かう途中の桜の樹の下に潜む。
朝の気配はすっかり秋のそれで、道路わきのススキの若穂が一層に晩夏を感じさせる。
やがて自転車で走ってきたMと数分立ち話。
なんの気無しの待ち伏せを随分と喜んでくれて、また立ち漕ぎで去っていくMを見送ってから畑へ向かった。

草むしり、ラッキョウの植え付け、山芋のムカゴ採り、落花生の土寄せ、サツマイモのツル返し。
日曜朝の畑は実に平和で、折りたたみ椅子で度々の休憩を取りながらの作業が楽しい。
畑脇の森でセミが盛んに鳴く。

周囲の畑では収穫の終わった夏野菜の苗がうな垂れている。
立ち枯れたトウモロコシ。
弾けたシシトウ。
葉を落としたキュウリ。
収穫されずに腐ったトマト。
でも、往く夏を嘆いてばかりはいられない。
秋の大根に向け、深く土を耕した。

夕飯には玉葱と小エビのかき揚げを作った。
ヌカミソに漬けておいた青トマトも食べ頃だ。
酒は久しぶりに燗で。
昨夜の酒の会で、暑い時期に呑む燗酒の粋を教わったからだ。


 

 


 

06/8/25 (金)

朝から忙しく動く。
Mの娘を看護学校のオープンキャンパスへ送り届け、一旦帰宅。
髪を切り、チョイノリのキャブを分解し、Mの車を洗い、パジェロのファンベルト調整。
どうしてもベルト鳴きを抑える事が出来ず、近いうちにオルタネータのプーリーを交換しようと決心する。

蒸し暑い日。
曇りがちな空と、時折のにわか雨。
はらはらと散るサルスベリの花で、庭の一部が赤く染まる。
睡蓮鉢に一つだけ浮かしてあるホテイアオイに薄紫の花が咲く。

午後、M、Mの娘の3人でサンマルクにて食事。
焼きたてパンが食べ放題のこの店は、パン好きには堪らない。

   

夜はパイレーツ・オブ・カリビアンを再見。
今回は吹き替えで見てみたのだけれど、子供の頃以来の吹き替えで見る映画も結構楽しめた。
写真はチケットに付いて来た「海賊のお守り」

 

 


 

06/8/24 (木)  秋刀魚の味

少し雲が多いけれど、夏らしい日が続く。
しかし、処暑も過ぎて明らかにその暑さには勢いが無い。
東京は3日連続の夕立。

萩とコスモスが風にゆれる。
アブラゼミに代わりツクツクホウシとヒグラシが鳴く。
葡萄の実が少しずつ色づいてくる。
晩夏だ。




ここ数日、誰も見ていないところで、誰にも評価されない仕事を黙々と続ける。
早朝から深夜まで。
食事の時間は無く、目は充血し、肩こりは酷く、頭痛は慢性化している。
挙句、他部署の輩には顔を見ないので海外にでも行っているのかと思ったと言われる始末。
一日中、窓の無い部屋に篭って凄い仕事量をこなしていると言うのに。
いい歳して誰かに褒めてもらいたいとは言わないけれど、何となく不機嫌になる。

午後、唐突に事務所のおねーさんに旅行に誘われる。
遅い夏休みを9月の初めに取るので、北海道にでもドライブ旅行に行きませんか、と。
他意は無いのだろうけれど、ちょっとびっくりする。
もちろん断る。
行けばきっと楽しいのだろうけれど、なんだかメンドクサイと言うのが本音だ。

夜、しばらくぶりでスポーツジムへ行く。
仕事に疲れて真っ直ぐ家へ帰りたかったのだけれど、気分を変えたくて自分に拍車をかける。
ここ数日、多忙ですこし参っていた。
忙しくなると、疲れているのに熟睡できなくなる。
深夜に仕事の夢で目が覚めたり、早朝まだ暗いうちから起き出して資料を集計したり。
明日は休み。
その前に、ジムで体に溜まった毒素を絞り出そうと思った。

周囲に迷惑なほど汗を滴らせ走りぬく。
1時間かけて10km。
腹筋と背筋を各100回、少し休んでまた5km走る。
だんだんと頭が真っ白になっていく。
何て気持ちが良いのだろう。





   

23時、スーパーで秋刀魚を買う。
ムッチリ肥った新モノの秋刀魚で、帰宅後さっそく塩焼きにする。
脂が乗って実に美味し。
この頃は深夜まで営業する店が多くて有り難い。
自転車で数分の距離には24時間営業のスーパーが二軒有り、どちらも深夜の買い物客で賑わっている。
スポーツジムは23時まで。
馴染みの弁当屋も24時間営業だ。

秋刀魚をつつきながら美和桜の大吟醸で1人飲み会。
明日は8日ぶりにMと会うことが出来る。
と言っても、娘の進学相談と看護学校のオープンキャンパスで終わるだろうけど。

今夜は少し遅くまで呑むつもり。




 

 


 

06/8/22 (火)  飯を炊く

さっきまで、グジグジと仕事の愚痴を書いていたのだけれど、読み返して嫌な気分になり全て消去する。
愚痴って気の晴れる種類の不満じゃない。
明日も早い時間から出勤して、自分で解決すれば良いことだから。

遅くまで仕事をして、うな垂れて帰る。
長い距離、長い上り坂を自転車で漕ぎ抜き、汗にまみれての帰宅だ。
体は消耗し、気持ちがササクレているのが良く解る。
眠るまでの短い時間に回復したい。

今日も昨日も昼食を食べる時間はなく、もともと朝食をしっかり食べる習慣も無い。
要するに、少し忙しくなると僕の食事は夕食のみとなるんだ。
昨夜は疲労困憊して食欲なく、シーチキンにタマネギを刻み入れ醤油をかけた物を食べながらビールを飲んで済ます。
今夜は意地でもキチンとした物が食べたかった。
どうしても料理したいモノが有る。
日曜日に自分の畑からお土産を持ち帰っていたんだ。
「むかご」だ。 ( こんな奴↓ )

   

むかごは子供の頃から食べている秋の味覚で、本来11月頃が旬ではないか。
山芋のツルに出来る実で、独特の香りと旨みが凝縮した小さな茶色の小玉は僕の大好物だ。
甘辛煮にしても良いし、生で食べる人も居ると聞く。
でも、僕は断然モチ米で炊くむかご飯が好きだ。

今年はムカゴの付きが良く、畑で作っている山芋のツルにはこの時期にもう、充分に飯を炊けるほどのムカゴが付いていたんだ。
今夜はもう遅い時間だけれど、今からコレを炊いて熱々のうちにハフハフと食べようと思った。

もち米、ムカゴ、塩と酒少々を炊飯器をセット。
それだけは寂しいのでフェンスからニガウリをもいで来る。
これを薄くスライスしてサッと熱湯をかけ、お酢と鰹節と醤油。
たった数分で出来るニガウリスライスのサッパリとした味は、この時期に欠かせないものだ。
ご飯が炊けるまで犬と散歩してまた汗をかき、それをシャワーで流していよいよお楽しみの時間だ。


   

質素だけれど、自分で作った野菜の料理を食べるのは気分が良いものだ。
適温に冷やしたエビスビール、それに続く大吟醸が一層に食事を豊かにする。
今、23時。
眠るまであと2時間ほどか。
1人で酒を呑むこの静かな時間が、きっと気持ちも体も回復させてくれるだろう。

明日も早朝に出勤。




 


 

06/8/20 (日)  基地で肉を喰う

午前6時、悪夢にうなされ目が覚める。
しかし、その夢の内容は殆ど覚えていないと言う理不尽な朝。
憮然としてコーヒーをいれる。

やや大気は不安定で、日中にわか雨の予報。
降らないうちにと畑へ向かい、農作業をしよう。
今日のノルマは、地元の畑で収穫を終えたトマト、ナスなどの夏野菜を抜き、秋の植え付けの準備として石灰を施し深く耕す。
埼玉の畑で、成長旺盛なサツマイモのツルが隣の畑の迷惑にならないようにネットを張り、草むしり、ムカゴの収穫。
チョロQ号に必要な資材を積み込み、日曜早朝の空いた道を走る。

どうやら天気予報は外れたようだ。
雨の気配は微塵もなく、ぐんぐんと上がる気温。
湿度が高い。
こんな炎天下での草むしりや土起こしは殆ど苦行に近いのだけれど、でもそれほど嫌じゃない。
それは、この先にまた秋野菜の収穫の喜びが待っていると知っているからだ。
秋に作るカブやダイコンがスクスクと育つよう願いながら、ただひたすらに雑草を抜き、土を掘り返す。
日陰の無い畑で、汗と泥にまみれヘトヘトになっての作業を続ける。
趣味だからこそ楽しんで出来る種類の労働だ。

14時、フラフラになって帰宅。
シャワーで汗と泥を流す。
腹が減ったな。
それも超弩級の空腹だ。
だって、朝起きてから何も食べずに、ずっと重労働をしていたんだ。
サンダルを引っ掛けて家を出る。
福生に肉を喰いに行こう。



福生は基地の街だ。
横須賀や沖縄ほどでは無いけれど、やはり基地の街特有の雰囲気を持っている。
子供時代、年に一度の基地開放の日に飛行機が大好きだった僕は朝一番にゲート前に並んだものだ。
この頃はそこまで熱心では無いけれど、独特な空気が好きで毎年足を運ぶ。
今日は基地開放の日。
第5ゲートをくぐれば、そこはアメリカだ。


   

それにしても彼らの肉に対する気持ちは、日本人の魚に対する気持ちより深いのではないのか。
格納庫の前で、テントの裏で、滑走路を前にして、どこを見ても肉を焼いている。
そして、肉の塊を炭火で焼いている彼らの笑顔ったらない。

皿からはみ出るほどのステーキ。
付け合せのポテトは居場所が無く肉の上に鎮座している。
溢れるほどのグレイビーソース。
間違いなく今話題のアメリカ産牛肉だろうけれど、そんな事気にしない。
毎年食べている味だ、今更気にしてもはじまらない。
少し焼きすぎで焦げている巨大な肉塊をビールで飲み下し、なんだか良い気分になる。
空腹の時に貪り喰らう肉の塊ほど説得力のある物は無い。

 




   



それにしても熱い。
空軍基地というところは、まったく日陰が無いのだ。
ジリジリと照りつける日差しと、コンクリートの照り返し。
何杯も呑んだ大量のビールのせいで汗が止まらない。
すこし休もうか。

C-130輸送機の下に逃げ込んだ。
その巨大な翼が作る気持ちの良い日陰。
デイバッグを枕に空を見上げていたら、いつの間にかウトウトしていた。
F-15か、F-16か。ジェット機の轟音が何度も聞こえたけれど、日陰の気持ちの良さに起き上がる気はしなかった。



夜、今日1日でまた真っ赤に日焼けしてしまった肌をシーブリーズで冷やす。
これはまた皮が剥けてしまうな。
でも、夏の記憶を黒く残すのはキライではない。
長い冬、色褪せてゆく日焼けを見ながら次の夏を夢見るのだ。

明日は月曜日。
盆の期間中、先送りし続けた仕事が待っている。
早くに出勤しよう。
黙々とこなせば、きっと月末までには目処がつくだろう。
施設改修を終えたスポーツジムも、火曜から営業開始だ。
また、僕の日常がやって来る。
そして、秋も目の前まで迫ってきている。

 

 


 

06/8/19 (土)  夏らしい日


   

素晴らしい夏の朝。
庭の百日紅は盛りを過ぎたものの、今なお鮮やかに咲く。
小さなアブがせっせせっせと蜜を集めにやって来るのを「さくら」と一緒に暫く見上げる。

早起きして、スクーターのメンテナンス。
アクセルを放すとエンストする不具合の対策として、プラグを交換しエアクリーナを清掃し、キャブクリーナーを使い、エアスクリューを調節。
構造が簡単なスクーターは整備が楽しい。
再び機嫌よくアイドリングするようになったスクーターで出勤時間ぎりぎりまで近所を散歩。
タンクトップ、半ズボン、ビーチサンダルで原付を嬉々と乗り回している様は、高校の頃から少しも進歩していない。

東京の最高気温は34度。
短い夏を惜しむのか、自らの生を思うのか、桜の街路樹で、アブラゼミが憑かれたように鳴いている。


さまざまな理由から、殆どの仕事を週明けに先送り。
月曜からの忙しさは考えないように、今日の平和を楽しむ。
昼はまた、大勝軒。

職場本館に殆ど誰も使わない応接室が有り、午後はそこに仕事資料を持ち込み引き篭もる。
最初のうちは数値の集計などしていたものの、段々とやる気が失せ、窓の外の雲を見る。
夏らしい白い積乱雲が発達し、遥か上空まで伸びている。

見ているうちにも形を変えていくほど活発な成長を見せる雲。
地上を熱した強い陽射しに作られた上昇気流により、1万メートルもの高さにまで成長する積乱雲。
急速な膨張により作られた氷の粒と乱流。
摩擦により帯電し、やがて分極を中和するために見せてくれる素晴らしい放電現象。
そんな雲の内部を想像する。 

三人掛けの大きなソファに寝転がって、その雲を見ているうちに眠たくなってしまった。




夜はニガウリを食べる。
スライスして塩もみ。
豆腐と木耳で炒めたチャンプルー。

家のフェンスで作っているニガウリが今年は豊作で、近所に配っても自分で食べても無くならない。
夏には欠かせない旬の苦味だけれど、あまり出来すぎても難儀するものだ。
まあ、赤く熟した姿も綺麗なので、そのまま放置しておいても良いのだけれど。

台風10号は対馬海峡を北上して抜けていった。
明日の東京は南からの湿った気流の影響で曇りの予報。
気温も今日に比べれば低く、畑仕事には有り難いかもしれない。
収穫を終えたトマトの苗をそろそろ引き抜かなくてはならないだろう。

 

 

 

 


 

06/8/17 (木)

   

Mと昼寝をする。
レースのカーテン越しに、窓の外は台風性の驟雨。
そして、時折の雷が響く。

空調された室内は平和そのもの。
気だるいのは、昼酒のせいだけでは無いだろう。
ゴロゴロと、糊の利いたシーツの上を転がる。
海で日焼けした肌は未だに火照りが取れない。

夜は、さくらと遊んだ。

 


 

06/8/16 (水)  雨

   

8月も後半へ。
僕にとって、最も季節のうつろいを感じる時。
夏野菜の収穫はそろそろ終わりで、アブラゼミの代わりにヒグラシの鳴き声が染み渡り、ススキの穂が揺れ、道端にブドウと梨の屋台が立つ。
盛夏を過ぎた夏が衰え、往く準備を初めている。

南海上の台風の影響で雨。
庭の萩の花が雨に打たれて揺れている。
遠くで雷が一つ二つ。




何となく二日酔いの朝。
どうも呑み慣れない酒はいけない。
この頃、黒糖焼酎の美味さに目覚め、昨夜もロックでグイグイとあおっていたんだ。
泡盛やウオッカと同様に、飲み口の良さに騙されてついつい呑みすぎてしまう。
少し浮腫んだ自分の顔を鏡に見て、ブツブツと言いながら出勤。

仕事は捗らず。
盆で休みを取る職員が多く、色々な事を先送りせざるを得ないからだ。

昼に大勝軒へ。
やはり盆の影響か、店内はガラガラだ。
注文を取りに来たオバちゃんが、手を滑らせて僕のテーブルに水をぶちまける。
幸い、ほとんど水は掛からなかったけれど、「剣客商売」を読んでいて状況の読めなかった僕は飛び上がるほどに驚いた。
やがて来たラーメンは、オバちゃんのサービスで大盛りに。
でも、これは有り難くない。
だって、ただでさえ量の多いことで有名な大勝軒。
この大盛りは、普通のラーメン3杯分はあるだろう。
頑張ったけれど、三分の一ほど残して退散。

午後は資料整理をして過ごした。




仕事帰り、数件のCD屋を巡る。
車の中で大音響でクラッシック(僕の場合はモーツアルト専門)を聞くのが好きなのだけれど、この手のジャンルの在庫を豊富に置いている店は少ない。
また、この頃は大全集とか入門とか称してダイジェスト編集された物が多いのにも辟易とする。
吉祥寺まで出れば大きなCD屋が有るのだけれど、何となく億劫になり帰宅。
犬を風呂に入れる。

夕飯はカサゴの干物、冷奴、ナスの味噌汁。
窓の外ではバラバラと大粒の雨が落ちている。
明日は休み。
Mと昼寝をするかもしれない。





 



06/8/14 (月)  停電

   

昨日、最後の収穫をしたトウモロコシ。
記録的な日照不足というけれど、その影響は種類により出方が違うようでトマトは明らかに不作。
トウモロコシは影響無かったようで豊作。
何年やっても野菜作りは難しい。

収穫したものはすぐに食べるに限る。
特にトウモロコシはそうだ。
去年実験してみたのだけれど、収穫直後に茹でた物と、半日経ってから茹でた物とではハッキリと甘みに違いが出るんだ。
だから、このトウモロコシ。
収穫の1時間後には僕の胃袋に収まった。
黄金色の粒の立ったトウモロコシを、縁側でむさぼる美味さよ。




朝、職場で停電のニュースに驚愕する。
江戸川を航行中のクレーン船が誤って27万ボルトの高圧線に接触。
それが東京の根幹線だったために140万世帯が3時間に渡り停電した前代未聞の事故だ。
僕は直接この停電の影響は受けなかったものの、職員の遅刻者が相次ぎ業務への影響はとても大きかった。

しかし、そんな事よりも遅れて来た職員から聞いた満員の電車に1時間も閉じ込められた話。
ちょうど通勤時間にあたった為、駅のホームに溢れる人。
息も出来ない程にギュウギュウ詰めの蒸し暑い空間。
ニュースで見た、エレベーターに数時間閉じ込められた人の話。
空調の停まった暗い地下街。

もし、自分がそこに居たら。
もし、有り得ないほどに混む朝の中央線に僕が閉じ込められたら。
きっと僕は正気を保てないだろう。
その逃げ場の無い空間で過呼吸を起こし大変な事になってしまうだろう。
それを思うだけで冷や汗が出、動悸がする。
影響を受けた人の中に居ただろう、沢山の僕と同じ病気を持つ人の事を思うと心底同情する。
本当に、お疲れ様でした。



   


今週はスポーツジムが夏休み。
そのせいで、夜の時間に比較的余裕あり。
この頃おろそかになってる自炊にじっくり取り込んでみたい。
今夜は味玉入りのスペアリブを作ってみた。
一味唐辛子を大量にかけて、冷えたギネスと共にいただきます。

窓を開けると、昨日庭に放った鈴虫がどこかで鳴いている。
きっと雌を見つける事は出来ないだろうに、水槽で飼われていた時とは明らかに違う力強い鳴き方だ。
その声を聞きながら、今夜は少し酔おうと思う。

 

 


 

06/8/13 (日)  草むしり



   

朝、M宅からグッタリした気分で帰る。

大量のご馳走と酒を車に積んでMのマンションへ遊びに行き、前夜から楽しく飲み食いしていたのだけれど
Mの元夫が突然現れた事により、一瞬でその場の雰囲気が変わる。

奴なりのM宅へ現れる理由は有った様だし、僕は奥の部屋に居て顔をあわせなかったけれど、壁一枚を通して感じる声と気配に吐き気を催す。
離婚して随分と経つのに、奴は未だ自分の家のようにこのマンションに出入りしているのだ。
奴が帰った後、その場に居たくなくて僕も帰りたかったのだけれど、すでに飲酒状態で運転する事が出来ない。
朝まで殆ど眠れず、長く暗い時を過ごした。

ああ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
自分がとても無力に思える。



気分を変えたくて、畑へ行った。
この時期、少し油断すればあっと言う間に雑草が生い茂る。
過保護に育てられた野菜など覆い尽くすほどに、葉を伸ばし根を張り花をつけ種を撒き散らす。

その懸命な姿を見ると、引き抜く資格が僕に有るのかとさえ思う。
子孫を次の世代に残そうと頑張る姿に感嘆する。
それは、怠惰に流される僕などより遥かに生物として真っ当な姿だ。

スベリヒユ、オオバコ、ハキダメギク、カモジグサ。
一言に雑草と片付けるには惜しいこれらの草達を、僕の野菜たちのために刈る。
曇りの予報を外してジリジリと照る陽を背中に感じながら、黙々と引き抜く。
少しだけ、可愛そうだなと思いながら。
この小さな畑の中だけでも、僕のルールを通したい。

枝豆はそろそろ終わり。
トマトは日照不足の影響で例年より旨みが薄い。
ナスは更新剪定。
トウモロコシとキュウリは収穫終了で、株ごと引き抜いた。





夕方、ふと思い立って水槽で飼っていた鈴虫を庭に放つ。
そろそろ寿命を終えようとしている夏の虫。
最後に庭の芝生の中で自由に鳴くのも良い。
他の場所へ去るのも良い。
好きにしたら良い。

明日は早い時間に出勤。
今週は、雲が多く気温は低めの予報。
頼むから暑くなってくれ。
綺麗な積乱雲を見せてくれ。
一瞬の夏を見せただけで、過ぎて行かないでくれ。





 

 



06/8/10 (木)  梅を干す

   

台風が雲を巻き取って東の海へ抜けた東京は、朝から素晴らしい天気。
早起きして梅を干す。
7月初めに仕込んだ梅も、この土用干しが終わればあとは寝かせるだけ。
1年もすれば塩が枯れて美味い梅干になるだろう。

周囲にすっぱい匂いを放ちながら、梅の表面が少しづつ乾いていくのを飽きずに眺める。
半乾きの赤紫蘇をツマミ食いし、1人ニヤケる。
僕はこれをカリカリに乾かしてから擂った「ユカリ」と言うものが大好物なのだ。

昼間、忙しいはずなのに何となく仕事をする気力なく海の事など考えボケッとする。
良いタイミングで、職場敷地内で目撃されたと言う蛇を捜索したり、海外へ行った人の土産話しを聞いたり。

夏らしい空。
ミンミンゼミが煩いほどに鳴く。

夕方、スポーツジムで2時間ほど過ごし、夜はまたビールを呑んだ。
ふと見ると、網戸の外側にカタカナのキと言う字が付いている。
近寄って見るとそれはヤモリで、捕まえてしばらく遊ぶ。
ヤモリは漢字で守宮。
家を守るという意味の名を持つこの小さな生き物をまた網戸の外側に戻し、ビールの続きを呑んだ。



 

 


 

06/8/9 (水)  台風の夜

昨夜は殆ど眠っていない。
深夜3時半に日記をアップしてから、テレビで台風情報を見ていたからだ。
大きくカーブした台風7号が、時速15キロで関東地方へ一直線に向かってくる。
990hPaと弱い台風だけれど、いつものように少しだけドキドキしながら窓の外の状況を眺める。

こんな夜はNHKに限る。
「次ぎの台風情報は○○時からです」の文字と共に、天気図や各地の雨の映像が映され、そのバックに音楽が流れる。
毎年この時期、何度も繰り返される放送だけれど、飽きずにずっと見続けている。
照明を落とした部屋で、テレビから流れる音楽と映像と、段々に強くなる雨の音。
そして時折の雷。
はやく眠れというのには無理がある。
興奮気味にベッドへ入ったのは明け方5時だ。

2時間後に起床。気温24度。
ふと、昨日は立秋だったかと気付く。
そう言えば海にもクラゲが出て来ていたな。
庭のミヤギノ萩に紫の花がつき、鈴虫たちは産卵して死んでゆく。

でも、もう少し待ってくれ。
ずっと待ち続けた夏だから、往くにはまだ早すぎる。
今年の夏。どうか、ゆっくりとしていってくれないか。




4000年前、アダムの子孫たちはノアの箱舟を前に大雨を見て「素晴らしい、雨が全てのほこりを洗い流すであろう」
と言ったけれど、今朝の東京はまさにそんな雨。
電車に乗る気がせず、車で出勤。
バラバラと、大粒の雨がフロントグラスに叩きつける。

車通勤を止めてから、職場に僕の駐車スペースは無いのだけれど、こんな日ばかりは仕方が無い。
敷地の隅に隠すように駐車。

仕事は酷いものだった。
たった3連休しただけなのに、その惨状を見てキュウと胃が痛む。
ここに居る限り、長い休みは不可能だ。
複雑な思いで、窓の外の雨と雲を見ながら仕事をした。

   

陸地沿いに房総沖へと抜けた台風7号は、それほどの被害を出さずに衰えていった。
雨が上がり、渦巻く雲が去る。
不思議なほど鮮明でコントラストの高い夕方。
いつまでも眺めていたい「ゆうまずめ」の時間。

仕事に飽いて、久しぶりに体を苛めるべくスポーツジムへ行く。
鏡に映る自分の体は、海の日焼けで真っ赤になっている。
今年の夏の名残りとして、この日焼けは木枯らしが吹く頃まで残っているのだろう。
それと共に、あの、ジリジリと刺し込む太陽の激しさも忘れずにいたい。
それは、僕にとって長く厳しい季節を越冬するための原動力になるからだ。

夜、憑かれたようにビールを流し込む。
梅雨明け以降、連日の行事だ。
日曜日を楽しみにする子供が、いざ日曜になると目前の月曜を嘆くように、
夏の短さを嘆き秋を恐れ、一杯でも多くの完璧な冷たいビールを呑もうと焦る。
スポーツジムで大量の汗をかき、体を干からびさせてから流し込むビール。
枝豆とトウモロコシ、冷やしトマト。
凶暴な太陽の下、海で呑むビールには到底叶わないけれど、この一杯一杯を大事にしたい。
そう、ただの一杯も惰性で飲むことは許されない。

そして今夜もまた、冷えたエビスと枝豆を前に、真剣勝負を挑むのだ。

 


 

06/8月某日  海へ行く


   


海へ行く。
今はもう、老いた叔母が1人で住むだけの家。
僕の母が生まれた家だ。

遊び道具を満載して浜へ乗り入れるために、先日手に入れた軽で出撃だ。
ETCもナビも付いていない車。
特にナビの付いていない車で遠出するのは10数年ぶりか。
久しぶりに見る、紙の地図。
困り果てる方向音痴の僕。

それにしても、車で遠くへ出かけることはどうしてコレほどまでに楽しいのだろう。
数時間も走れば、いつも聞いている東京FMが入り辛くなってきてチューナーを弄り地元局を探す。
そんなちょっとした操作にも、日常から遠い世界へトンズラする喜びを感じる。

分解しそうな音を出しながら高速を爆走する小さな車が可愛い。
時速100キロが性能の限界。
教習所を出て以来のキープレフトで淡々と走る。



   


フェリーのデッキに出ると、海霧。
先日見た海賊映画を思い出し、すこしドキドキとする。
タコの化け物でも出てこないかな。

視界は数百メートル。
船の運転手さん、慎重にお願いします。


   


そんな乳白色の霧に覆われて、孤島の灯台が見える。
ああ、なんて素晴らしいんだろう。
燈台守りの仕事募集して無いですかね?
喜んで浮世の面倒事を捨てて行くのだけれど。
その代わり、補給船で定期的に本と大量の酒の差し入れお願いしますね。

この灯台の情景、どこかで見た事があると思っていたのだけれど、
遥か昔に読んだ「ムーミンパパ海へ行く」という本の挿絵だという事に気付き、デッキで1人笑ってしまった。
あれはとても良いお話しだったな。
探せばきっと、本棚の奥から引っ張り出すことが出来るだろう。
再読してみようか。




   

やがて到着。
毎年、子供時代の夏休みを過ごした浜。
以前は観光客もそれなりに居たと言うのに、今ではすっかり寂れ誰もいない。
今の時代、夏休みの子供達は海で遊んだりしないのだろうか。

磯遊びって、なんでこんなに楽しいんだろう。
アメフラシを突付くと紫の液を出す事を、イソギンチャクを指で押すと潮を吹くことを、今の子は知っているだろうか。
潮溜まりに取り残された小魚を追い、ヤドカリを捕まえ、シッタカを集める事の楽しさを知っているだろうか。

何を読みたくなるか解らないから本を6冊持ってきたのに、殆ど読むことをしなかった。
海辺に麦藁帽子をかぶって座り、ビールを飲み、磯遊びをし、雲を眺める。
6本パックのビールを呑みつくし、サンダル引っ掛けて買いに行き、また飽きずに海へ。

どうしてコレほどまでに海が好きなのだろう。
僕は、海を何時間だって飽きずに見続ける自信が有る。


   


それにしても、僕の他に人がいない。
良く晴れた日曜の海に人がいない。
子供達はどこへいったんだ。
若い奴らは何をして遊んでいるのか。
繰り返すけれど、今日は晴れた日曜日。
こんな綺麗な海を独り占め出来る事に嬉しさ反面、違和感も感じた。

それでも、誰の目も気にしなくて良い開放感は素晴らしい。
母の実家から歩いて数分のこの砂浜はまさにプライベートビーチ。
意味も無く流木を集めたり、大声で歌を歌ったり、全力疾走したり、full珍でお尻を焼いたり。
叔母ちゃんが持たせてくれたスイカを齧る。
梅干入りの巨大なおにぎりにかぶりつく。
そしてまた、ビールで流し込む。

熱い砂の感触と、海風の心地よさを全身で感じよう。
ああ、あまりに気持ちが良くて僕はもうどこかへイッてしまいそうだよ。




東京のオシルコのような海や、スモッグに濁った雲とは違う。
濃い群青の海と、白く雄大な雲が全く素晴らしい。
浜で放心していると、何一つ昔と変わらない気がする。
ただ違うのは、仲の良かった従兄弟が2年前に急逝し、今、この浜で僕の隣に居ない事だけだ。

夕方、墓参り。
ヒグラシの悲しげな鳴き声が雨のように降る。
キリスト教の家に育った僕には慣れない線香の匂い。
墓誌に刻まれた新しい文字。

あの、まるでもう1人の僕のように気の合った従兄弟が死んだなどとは到底信じられない。
頭で理解していても、受け入れる事が出来ない。
2年前の9月23日。
あの日の事を昨日の事のように覚えている。

彼の存在は消滅したのか。
いや、死により失われたのではなく、どこか違う世界に移っただけなのだ。
そう思うほうが自然だろう。

おい、ツトム。
そっちの世界はどうだい。
こっちの世界は、相変わらずだよ。



夜はまた、浜を散歩。
熊のような図体の老犬と一緒だ。

街灯の影響を受けない月の光が、一層に青みを増す。
防波堤の陰で、どこから来たのか若い2人がライターを灯す。
やがて濃厚な線香花火の匂い。

沈もうとする北斗と上ってくるカシオペア。
夏の大三角形、アンタレス、木星とアルクトゥルス。
昼間の日焼けで火照った肌がヒリヒリと痛い。
明日も早起きし、磯に行かなければ。

慢性化してしまった胃痛が、こっちに来てから無いことに気付く。
普段は朝食など食べた事も無いのに、空腹で目が覚める。
スイカ畑の手伝い、海、ビール。
その繰り返し。
ふと、此処での生活を想像してみる。
本屋が無くても、気に入りの飲み屋がなくても、インターネットがなくても、地酒専門店がなくても、
ここでならきっと豊かに暮らせる気がする。

あるいは、そんな気がするだけか。






   


今回、荷物満載で砂まみれ潮まみれになりながら頑張ったパジェロミニ君。
ちっちゃいのでチョロQ号と命名。
良く働いてくれました。

チョロQ号、東京へ帰ったら温水で潮を流してあげるから。





   


あっという間に過ぎてゆく、海での時間。
台風7号の影響で波が巻く。

僕の日常へ、帰る頃合か。
そんな訳で、さようなら。
そんな訳で、またきっと来年の夏に。

 


 

06/8/4 (金)  脱力する

仕事に行くのが嫌になるような、素晴らしい夏日。
パジェロでで出勤。
職場近くの三菱のディーラーでファンベルトの張りを調節してもらう。
先日新品に交換したベルトの張り調整が上手く行かず、どうしてもエンジンをかけた直後にベルト鳴きするからだ。
三菱の整備部門の人は愛想が良く好感が持てる。
例の三菱ショックの影響だろうか。




僕は職場では温厚な人と言う事で通っている様だけれど、怒るときは怒る。
そして今日は少し怒った。  と、いうより脱力して不機嫌になる。

会議メンバーが連絡も無く休暇を取り、深夜まで掛かって僕が作ったレポートが無駄になったからだ。
12人の委員のうち5人もが休み。
それも1週間、10日と長期の夏休みを取る者ばかりで、次ぎの会議の予定すら立たない。
それならキチンと回覧してほしい。
そのアオリを喰らって忙しくなるのは僕なのだから。

監査の対策はどうするのか。
職場内学会の予定も決まっていない。
外部から講師を呼んでの勉強会も近づいているのに、資料すら出来ていない。

部屋に帰ってキーっとなる。
他の部署に気を使ってマトモな夏休みも入っていない自分の勤務表を見てウンザリする。
馬鹿らし。
発作的に来週月曜、火曜に赤丸を入れ日曜からの3連休を作る。
たったの3連休と言うのが小市民的では有るけれど。




   


帰宅後、畑へ枝豆を取りに行き塩茹でにする。
冷えたエビスビールを一気に飲むと、さっきまでの嫌な気分など吹き飛び上機嫌。
突然出来た3日間の休みをどう使うか考える。

天気が良いなら海へ行きたいな。
それも人の居ない海が良い。
従兄弟の墓参りもしたいし、あの葬式以来行っていない母の実家へ行こうかな。
防波堤の上でビールを何本も空けながら、本を読もう。
そうしよう。
クーラーボックスと読みかけの文庫を持って、海へ行こう。

 

 


 

06/8/3 (木) 蓮

   

夏らしい、気持ちの良い朝。
早くに起き、出勤前に近所を散歩する。

お寺の境内で蓮が素晴らしい蕾をつけている。
キリスト教の家庭に生まれた僕は蓮と仏教の関連には疎いけれど、たしかにこの花には厳かで神秘的なものを感じる。
これを自分のものにしたい。
スイレン、ガマ、アシ、パピルスと水生植物を育てているけれど、蓮の花の魅力には到底かなわないだろう。
いつか必ず、この蓮に似合う池を作ろう。
庭でこんな花が咲いたら、僕はきっと1日中ウットリと見つめているだろう。

朝食に桃を頂く。
ムッチリと見事な白桃で、スルスルと面白いように皮が剥けるのだ。
素晴らしい芳香。
完璧な食感。
貪り喰らううちに、祖母の事を思い出す。
亡くなった祖母は桃が好きだった。
僕がまだ小さな子供だった頃、遊びに行くと黒光りした菜切り包丁で桃の皮を剥いてくれたっけ。
たしか祖母は桃の事を水蜜と言っていたな。
水蜜と、今僕が食べている白桃は種類が違うのだろうか。
あの頃食べた水蜜は、もっと実が硬く汁気も少なかった気がするけれど。




自転車で出勤。
たった2連休を取っただけで、理不尽なほど仕事が溜まっている。
定時より1時間早く出勤するも、部屋へ入るともう内線が鳴っていてウンザリとする。
専門の仕事、本来は関係の無い仕事、愚痴を言いに来る人、文句を言いに来る人。
慌しく時間が過ぎる。
昼に龍口春雨・さんらーたん麺。
おやつは時間無し。

PCのモニターでアメダスの数値を見ながら、窓の無いシールドルームで建物の外の夏を想う。
空調の利いたこの部屋は、時間も季節も天気も、あらゆる感覚を奪う。
1時間あたりの日照時間52分。 気温31度などという数値をチラチラと見ながら仕事を続けた。



仕事帰りにスポーツジムへ寄る。
ちょうど窓の外に月齢9の月が出ていて、それを見ながら気持ちよく走る。
月のすぐ脇には、-2等級の木星が優しく光り、その反対側で赤く光るのはさそり座のアンタレスだ。
東京でも、透明度の良い晩には思いがけず良い星空を見ることが出来る。
今夜は特に木星、月、アンタレスの作る曲線が綺麗だ。
壁一面に取り付けられたモニターでテレビを見ながら走っている、何度か話したことの有る女性にそれを教えようかと思ったけれど、面倒になって止めてしまった。

サウナとマッサージで仕上げて帰宅。
遅い夕飯には、昨日買ってきた刺身コンニャクと畑の枝豆。
酒は「甲斐の開運」を冷やで2合。
あすも早く出勤したいので、今夜は早く切り上げねばならないだろう。




 


 

06/8/1~2 連休する

そして8月がやってきた。
梅雨明け直後の、まだ遠慮がちの高気圧。
まるで秋のような朝夕の風。
西日本の熱波のニュースを見ながら、東京にも数日以内に確実に吹くだろう熱い風を思う。
早く暑くなれ。

数回に分けて取る、ささやかな夏休みの第一弾。
Mと休みを合わせた2日間を共に過ごす。



1日。
午前の早い時間にM宅を出る。
数日前から壊れている洗濯機を買うため、家電量販店を廻るのだ。
野球に没頭している2人の息子と潔癖な娘に酷使される洗濯機。
コイツがダウンする事は許されないのだ。

どの店も在庫は無く、配送には1週間との返事にゲンナリする。
今持ち帰りたいんだ。
山になっている洗濯物を今日中に成敗しなくてはならない。
販売員を泣き落とし、展示品を安く売ってもらう事に成功した僕らは、ニヤニヤと笑いながら車に積み込んだ。
後部シートを畳んだパジェロミニは大きな洗濯機をスッポリと飲み込む。
先日の自転車運搬と言い、まったく頼れる奴だ。

午後、大泉で映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」を観て、涙が出るほど大笑い。(近々、もう一度観ると思う)
その後、夕飯用に大量の酒と食材を買い出しに行く。

帰宅後、進路の相談と化学の家庭教師の件で娘と真面目な話しを1時間ほど。
その後、遅くまで飽食する。
父親の所へ行っている長男が居ないのが少し気になるけれど、彼とは月末にまた遊ぶ事ができるだろう。

夜はみんなで雑魚寝した。




2日。
Mと2人でドライブをする。
久しぶりに乗る主力の車。
パジェロミニと比べると全ての動きがシビアで、レーザー光線のような切れ味を見せる。
峠道を走るのに、コレほど楽しい車が他に有るだろうか。
トラストマフラーの素晴らしい音を聞きながら、気持ち良く走った。

   

この道が好きで、Mと何度走ったろう。 (詳細はリンクフリーのここで。→道志みち
綺麗な川沿いを走る気持ちの良い道。
特に夏の季節が良く、水田やクレソン畑に陽光が反射する風景は何度見ても溜息が出るほど美しい。
平日午前の空いた道。
朝のうち掛かっていた低い雲は消え、夏らしい空が広がる。

点在する観光スポットには興味なく、僕らは川に下りて放心する。
鮎釣りで有名なこの川はとても美しく、他に誰も居ないのを良い事に僕はパンツ一枚になって岩の上で寝そべった。
煩いほどのセミの声と川の水音。
目を閉じると、なんだか眠たくなってしまう。
川に浸かった足が、冷たい水に耐え切れなくなるまでそこで放心していた。

道の終点は山中湖。
そこから川口湖へ抜け、いつもの店で「ほうとう」を食べる。
タマネギとカボチャの甘みが良く出た味噌味のほうとうは僕の大好物で、それを暑い時期に汗を流しながら食べるのがまた良い。
湖からの風が気持ち良く抜ける店。

ゆっくり食事をし、ゆっくり散歩をし、木陰に停めた車の中で30分ほど昼寝をし、また周囲の山を見ながらボンヤリする。
焼きトウモロコシののぼり旗。
スイカを切り売りする屋台。
部活の合宿らしい生徒がランニングしていく。
夏だな、と思う。
気持ちの良い日だ。

   

夕方、風が少し強くなるころ帰路につく。
御坂トンネルを越えて山梨。
遥か甲府を見下ろしながら長い坂を下り、中央自動車道の一宮御坂ICから一気に東京へ。

西の澄んだ空気が赤く焼け、山の端のコントラストが強くなる。
南には半円の8日月。
相模湖を越えれば、やがて東に東京のビル群が見えてくる。
2日間の短い休みが終わる。

夕飯は豆腐をツマミに、買って来た富士の地酒を呑んだ。
夜になっても気持ちの良い風。
南部鉄の風鈴がリンと鳴る。
庭のホウズキが夜気の中で少しづつ赤みを増している。