普通の日2014年06月03日

実家の庭で、見る人も無く紫陽花が咲き始めた。
露草も夾竹桃も咲き始めた。
いつの間にやって来ていた6月に戸惑いながら、でも季節はまっすぐ夏を目指している。
母が居なくなって、今日で2週間。

6時半に起き、犬との散歩。
玄関前の掃除、ゴミ出し、温めた牛乳を飲みながら新聞を読んでバイクで出勤。
朝から体にまとわりつく重い湿気。 今日も暑くなりそう。

生活も仕事も少しずつ落ち着きを取り戻している。
職員健診もそろそろ終わりだし、溜まったルーチンにも手を付ける。
昼食は「すきや」まで行っておろしポン酢牛丼370円。
午後は会議室に閉じこもって、研究会の原稿を書いた。

仕事が終わったら急いで帰る。 そんな事はもう必要なくなってしまった。
だから、用も無いのに寄り道したりする。
本屋で立ち読みをし、和菓子屋でドラ焼きを買い、ホームセンタではドッグフードを買った。
まっすぐ帰っても介護に充てていた時間をどう過ごせば良いのか解らない。
かと言って仕事をバリバリしようという気にも今はまだならない。
実家の整理でもすれば良いものを、それも気が進まず放置している。
なんだかボンヤリした日々。
かつてあれほど望んだ普通の日とはこんな日々では無いはずだ。

夕飯は冷奴と庭のキュウリ、冷たいうどん。
その後、酒を呑みながら本を読むつもり。
母の寝室から引き上げてきた本が大量に積み上げてある。
一年くらいの間、新書は買わなくても良いほどだ。
今読んでいるのは笹本稜平の「春を背負って」





今年のワラビ2014年06月06日

寒くて目が覚めた午前4時半。
布団を被り直しラジオを点ける。
今日は24節季の芒種。 イネ科の種を蒔く頃という意味だとラジオから聞こえる。
外は小雨。

朝の家事をしてから車で出勤し、ルーチンワーク。
休みがちだった5月の仕事がまだ残っていて、でも頑張ろうという気にもならない。
昼は1時間の休憩を取り、殆ど残業もせずに職場を出た。
伸び放題だった髪を切り、スーパーとドラッグストアを経由してから大雨の中帰宅。

夕飯はカツオの刺身とワラビのおひたし。
犬には鳥の胸肉とキャベツを煮たもの。
食事後、酒を呑みながら読書。
 
-------------------------------------------------------------------------


昨日、久しぶりに行った山梨の温泉でワラビを買った。
両親はワラビが好物で、僕が摘んだり買ったりして持ち帰ると大喜びしたものだ。
この苦さがたまらない、と母は言うだろう。
父はただ笑いながら、これを肴に酒を呑むだろう。

朝顔の芽が出たり、メダカに餌をやったり、塀にカタツムリを見つけたり、猫が喧嘩していたり。
折り込み広告でゴミ入れを折ったり、布巾を漂白したり、床を拭いたり、洗濯物を取り込んだり。
雨の匂いとか、アイロン掛けの匂いとか、温めた牛乳の匂いとか、柔軟仕上げ剤の匂いとか。
玄関の鍵を閉める音とか、庭を箒で掃く音とか、雨垂れの音とか、風鈴の音とか。

身の回りの全てのものに、母の思い出が色濃く沁み込んでいる。
それはまだ懐かしくは無く、それほど悲しくも無く、ただ母の気配として感じる。
母ならこう言うだろう、とか。 母ならこうするだろう、とか。

ただ目の前に居ないだけで、こうして母と、そして6年前に逝った父とも暮らしている気がする。
この先もずっと、そうして暮らしていくだろう。
そう思えば失ったものなど何も無いのかもしれない。
祭壇に、庭の夾竹桃の赤い花を飾る。
今日で葬儀から2週間が経った。





カッパ作業2014年06月08日



梅雨入りした途端、天の底が抜けたような雨。
この数日で一か月分を大きく上回るほど降ったという。
冬の雪、夏の暑さ、台風や雨の被害も年々苛烈さを増している気がする。

そんな雨の中、カッパを着こんで墓の掃除。
2週間後の納骨までに草むしりや木の剪定を済ませておきたかったからだ。
登山用のちょっと高いカッパはさすがに快適で、これなら雨の一日を外で過ごすのも悪くない。

墓の後は埼玉に借りている畑まで行き、これまた雨の中の畑作業。
でも久々に行った畑は荒れ果て、ジャガイモ収穫は良く無さそう。
夏野菜の植え付けも出来なかったし、この畑は秋まで防草シートで覆ってしまおうか。
これからは少し作付け量も減らした方が良いかもしれない。
僕の作る野菜を一番楽しみにしてくれた人はもう居ないのだから。

換毛期のワンコを洗ったり、風呂のカビ取りをしたり、ルンバのメンテナンスをしたり。
PCのバックアップをとったり、ラジオドラマを聴いたり、アイロンをかけたり。
一人の日曜はそれなりに忙しく暮れてゆく。



ミニお遍路2014年06月11日











雨の高幡不動尊。
Mと二人、四国の霊場に倣い作られた八十八ヶ所の巡拝道を歩いた。
ここの来るのは数年ぶり。
なぜか、たまに無性に来たくなる場所なんだ。

紫陽花に彩られた丘陵の道をゆっくり歩いて2時間。
なんだか久しぶりに気分の良い一日。


ネジバナ咲いた2014年06月13日



実家の塀から顔を出したネジバナ。
凄い根性だなあ。

夏至まであと一週間。
東京の昼時間は14時間34、5分で、年間を通して今が一番長いんだ。
真冬の頃より5時間近くも長い昼をどう使おう。
その時期が梅雨と重なるのは生憎だけれど、その晴れ間を有効に使う事も楽しみだったりする。

朝4時半に目が覚めてそのまま起きてしまい、庭の畑の草むしり。
キュウリを6本とナスを2本収穫し、トマトの芽かきも。
それだけやってシャワーを浴びてもまだ6時前で、出勤前の時間を有効に使えた満足感はある。
庭仕事はやっぱり楽しい。

仕事は特記事項なし。
17時、約束していた銀行担当者と支店で顔合わせ。
いくつかの相談と、いくつかの手続きと。
途中で職場から急変の電話あり、仕事に戻り暫く労働。
銀行にはこれから数度、税理事務所には数え切れないほど通わなければならない。

6年弱前に父が逝って、その後の雑務やドタバタで1年弱苦しんだ。
ほとんど家賃収入で生活していた両親は、でもその管理を全て人任せで放置していた。
だから相続となると僕がやらざるをえず、なれない作業に忙殺されることとなったんだ。
そして母も逝き、またもそれを繰り返さなければならない。
これから長く続くその役目に、いまからもうウンザリとしている。
不肖の兄の存在が足を引っ張り、でもその手続きの殆どは兄一家の為のものなんだ。






4週間2014年06月17日



ずいぶん長いこと夜中に二度、実家へ行っていた。
そんな母のケアに必要だった深夜の目覚まし習慣も体から抜けつつある。
ようやく数時間続けて眠る事が出来るようになってきた。
きっと、寝る場所を寝室から二階の畳の上へと変えたのも良かったのだろう。
実家との間にインターフォンを設置した寝室は、暫く使いたくない。
夜中にチャイムが鳴った気がして飛び起きるのは、もう嫌だ。

そして二階に寝ると早い時間に自然と目が覚める。
東側の窓にカーテンをひかず、朝日の差し込むままにしてあるからだ。
東京の今朝の日の出は4時24分。
それは一年で最も早い夜明けで、数日後にはもう4時25分になってしまう。
そんな早朝にワンコを連れて庭に出て、畑の野菜の世話をした。

キュウリとナスは毎日ウンザリするほど良くとれて、近所やM宅にも配っている。
トマトの収穫もそろそろ始まるだろう。
母が好きだった大玉トマト。
時間差をつけて植えたから、秋までずっと収穫できるはずだ。

--------------------------------------------------------------------------

仕事は特記事項なし。
忌引きで休んだ1週間の遅れはほぼ取り戻した。
昼休み、ネットバンクからいくつかの支払い。 往診、訪問看護、ヘルパー。
母が居なくなってしまった後の手続きを、湧き起こる様々な思いと共に片付ける。
午後、某不動産管理会社の担当が来て、応接室でしばらく談合。

夕飯は作る気力なく、近所の店でチャーハンとビール。
あれから今日で4週間が経った。


一ヶ月2014年06月20日



庭の畑のキュウリ。 今日の収穫は4本。
キュウリキュウリキュウリ。 キュウリだらけの我が家。
でも好きだからポリポリ齧る。
味噌を付けて、梅を塗って、マヨを垂らして。
母が居なくなって一ヶ月が経った。
僕はただ毎日、キュウリを齧り続けている。




6月23日2014年06月22日

さきほど、母の納骨を終えた。
お骨を墓地へ運ぶとき、これで母を車に乗せるのは最後なのかと思うと涙が出た。
牧師にも来てもらい、賛美歌を歌ってお別れ。
でもこれは骨と言う物体を地中へ収めただけで、何かを亡くした訳ではないと思うことにする。

あの夜の一本の電話から突然始まった大波は、これから徐々に凪いでいくだろう。
あれから季節は一周半まわり、母は僕の中へと住処を変えた。
辛さが懐かしさへと変わるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。
でもそれは必要なプロセスなのだから、受容できるまで悲しめばいい。

新しい生活には少しずつ慣れてきた。
母と同居していた訳ではないし、もともとの独り暮らしだもの。
ただ、染み付いた習慣はなかなか抜けきらない。
綺麗な和菓子を見れば買ってかえってやろうと思い、本を読めば母にも廻そうと思う。
紫陽花の紫や向日葵の黄を見れば、それを見せてやりたいと思う。
そしてその度に、ああもう居ないのだと気づくのだ。

実家には兄一家が住み着いた。
母が丹精していた庭は荒れ果て、僕がプレゼントしたシクラメンは萎み、池の水は腐っている。
でも僕にはもう、あの家のことは何も出来ない。
残念だけれど、両親は逝き世代は交代したのだ。
あと数回遺品整理に通ったら鍵を捨て、もう二度とあの家には入らない。

7月からは相続作業で税理士通いも始めよう。
一時は放棄してしまおうかとも思った今年の野菜作りもまた手間を掛け出した。
積み上げてあった本も読みはじめている。
今はまだ気力がないけれど、いつか夜のジョギングも再開できたら嬉しい。
そうして日常を送りながら、母の介護と看取りが終わったことを自分で認めなければならない。

畑野菜消費2014年06月26日

夜明けの早い今頃をそのものずばりで「短夜」と呼ぶけれど、まさにそれ。
この頃は二階の畳の上で寝ているけれど、朝日の差し込みで自然と早くに目が覚める。
今朝は4時。
いくらなんでも早すぎるとラジオを聴きながらボンヤリしていたけれど、5時前には活動開始。
洗濯と犬の散歩をし、畑のナスの害虫駆除をし、犬をシャンプーしてから洗濯物干し。
温めた牛乳を飲みながら新聞を読んでもまだ6時半だから、やはりこの時期は良い。
トマトとキュウリを収穫し、ゴミ出しをしてから7時半にバイクで出勤。

仕事は特記事項なし。
というか、倉庫の引越し作業にかり出され、大汗と共に半日を浪費した。
昼食は職場至近の店で味噌ラーメン。
午後はずっと事務仕事。


今日は銀行も税理士も寄らず、眼科とスーパーに寄って19時帰宅。
また犬の散歩と自宅の掃除など。
仕事が終わったらMが来るけれど、それはかなり遅い時間になりそうだ。
とりあえず、庭のキュウリとシソ、生姜で酢の物と焼きナスだけを作ってM待ち。
彼女の到着後、冷やし中華を作るつもり。
それもやはり、畑のトマトとキュウリの消費をかねてのものだ。



今夜は肉2014年06月28日

梅雨の時期だから雨が降るのは仕方が無いけれど、この不安定さはなんだろう。
先日は自宅近くで雹が20センチも積もったり、突風で近所のお宅の屋根が破壊されたり。
昨日は某露天風呂で伸びていたら空があっという間に暗転し、白い水煙が立つほどの豪雨。
経験無いほどの大粒の雨を体中に感じながら温泉に浸かる貴重な体験をした。

子供の頃の日本の気候って、もっと優しかった気がしてならない。
春も秋も、もっと長く穏やかではなかったか。
今年はどんな夏になるのか。 今から少し不安だ。

朝5時に起き、小雨の中の犬の散歩から一日を始める。
毎日同じルートを同じ時間に同じように歩く。
犬はまるで警備員のように、自分の街に何の異常もない事を確かめながら歩く。
この頃あまりにも環境が変わり過ぎていたから、そんな変化の無さが嬉しい。
そして犬は小屋でまた眠りにつき、僕は車で職場に向かう。

仕事は特記事項なし。
窓の外は終日の雨。


あまり牛脂が得意ではなく、牛肉なら赤身のランプ肉が好きだ。
職場で上等な赤ワインを貰ったから、今夜はランプとタンをサッと焼いて夕飯とする。
レモン塩でもワサビ醤油でも美味し。
Mは夜勤。
今頃あの病棟を走り回っているだろう、など考えながら独り肉を食らう夜。