柿が美味い2012年11月16日



子供の頃、僕は柿が好きではなかった。
それなのに昔の家には柿の大木が4本もあり、秋は庭が柿一色に染まったものだ。
その時期はオヤツばかりか食事にまで柿ばかり。
父も祖父も柿が好きだったものだから、柿なますとか柿白和えとか柿ジャムとか柿の葉茶まで。
見事に柿料理ばかり出てくるものだから、ちょっとした恐怖だった。

唯一好きだったのは干し柿で、それも一日一つも食べればもう充分だったっけ。
とにかく当時の僕の家になる柿の量ったら、もう夢に見るくらいだったんだ。
なぜあんなに柿の木が植わっていたんだろう。
柿の実に飽きた、という作文を書いた記憶すらあるくらいなのだ。

食の好みって変わるものだ。
その美味さに目覚めたのは、酒呑みになってから。
酒を呑んだ後、あの和菓子のような甘さが嬉しいんだ。
干し柿も、実の柔らかな富有柿も、可愛い筆柿も、渋抜きし柔らかくなった柿も今は好物だ。
いつも何個か転がしてあり、毎晩の楽しみになっている。

皮肉な事に、かつてあれほどの実を付けた柿のあった場所には今、賃貸物件が建っている。
無くして気づく事も多い。
柿の木に友人と登っていたら枝が折れて小指を折った。
柿の実の皮でタクワンの甘み付けをした。
縁側で祖母と干し柿を作った。
父の焼酎で渋抜きをした。
今にして思えば、そんな沢山の記憶があるんだ。
柿色がなぜか懐かしく感じるのは、きっとそんな宝物のような思い出が有るからだ。