2006/62006年06月30日

          

 


 

06/6/30 (金)  青トマト

   

曇り。
最高気温29度。 
湿度が高い。

暑くなると、なぜこれほどまでに活動的になるんだろう。
冬の間溜息をつき、背を丸め、うつむいていた僕が、早起きをして出勤前に畑の様子を見に行ったりするんだ。
まったく我ながら呆れてしまう。

まだ青いトマトに触れてみる。
小さなナスを撫でてみる。
もうそれだけで良い気分だ。



月末の金曜日。
昨日仕事をサボった報いで走り回る。
あっちで比色計を動かしながら、こっちで顕微鏡を見て、遠心器を廻す合間に他部署へ顔を出す。
打ち合わせ、レポート作成、外注業者の訪問を受け、その後また打ち合わせ。
滑り込むように、何とか今月中に終わらせたい作業を片付ける。

昼にホームラン軒野菜タン麺。
おやつは無し。
職場内の売店が棚卸しで営業していなかったからだ

仕事帰りにジムへ寄る。
職場から長い上り坂の道を自転車で5キロ。
これだけでもう充分に汗をかくのだけれど、更に絞り出そうと1時間ほどマシンの上で走る。

昨日は呑み過ぎたな、とか。
今夜は休肝日にしようかな、とか。
ヌカミソからキュウリを出さないとな、とか。
漬物があるならやはり一杯やらない訳にはいかないな、とか。
一杯の筈が二杯三杯になるんだよな、とか。
走りながら考える事なんてそんなもんだ。

帰宅後、今朝漬けたラッキョウの様子を見、3本の梅酒の様子も見、カブトの幼虫を見る。
ヌカミソから昨日のキュウリを出し、小さなイサキを一匹塩焼きにし、大根おろしを沢山作り、玉葱をスライスする。
葉モノ以外の野菜はほぼ自給自足だ。
酒は一合だけ気に入りの酒器に注いだ。
今からその一合をゆっくり時間を掛けて楽しもうと思う。

週末からまた梅雨が戻ってきそうな気配。
でも、明日からは7月。
もうすぐ本物の夏がやってくる。
その短い夏をビールと共に楽しむため、畑には沢山の枝豆を植えているのだ。




 




 

06/6/29 (木) 芋を掘る

   

職場の、窓の無いシールドルームに篭っていた。
空調と防音の利いた部屋で、そこに入ってしまうと外界の様子は解らない。
唯一、ネットに繋がったPCだけがそれを知る手段となる。

仕事に倦んで、PCでアメダスの数字を見る。
都心はすでに30度を突破しているじゃないか。
お天気カメラでは雲は多いものの晴れ間ものぞいている。
前線が南に下がり、ずっと待ち望んだ夏の日がちょっとだけやってきたんだ。

週間予報では土曜から再び雨。
そうなるともう我慢が出来なかった。
仕事なんかサボってやる。
目前の作業だけをやっつけ、関係部署へ内線をまわし、そそくさと職場を出る。
車で1時間。
借りている埼玉の畑でジャガイモを掘るんだ。


暑ければ暑いほど元気になる。
気温31度。
作物の出すムッとする様な湿気と日陰の無い畑。
ダラダラと汗を流しながら至福の時を過ごした。
これほど楽しい作業があるだろうか。
土の中からゴロゴロと芋が出てくるなんて。

植え付けた三分の二程を収穫。
残りは今度、Mの息子に掘らせてやろう。
いろんな経験をさせてやりたいんだ。

収穫した30キロの芋を前に放心していると、この畑の大家さんである農家のお爺さんがやってくる。
そして、ムッチリと肥った僕の芋を見て、
こりゃ農家顔負けだ。素人さんにこんな上手く作られたら農家は困ってしまうと笑って言う。
最近言われた中で一番嬉しい褒め言葉だった。




夜、幼馴染と呑みに行く。
たまに前を通るけれど、未だ入った事の無かった居酒屋へ行って見る。
これが大当たりだった。

他に店も少ない住宅街にポツリとある店。
僕と同年代の男性が1人でやっている。
6席ほどのL字カウンターと小上がりに小さな座卓が2つ。
黒い板張りの小さな店だ。
メニューは毎日書き変える手書きで、今日の薦めには美味そうな魚が列記される。
奥にあるガラス張りの保冷庫には、呑んだ事の無い日本酒が沢山並んでいる。

味の濃い茹でたての枝豆。
初めて食べた絶品のトビウオの塩焼き。
厚切りのカツオの刺身にはニンニク、生姜、ミョウガとシソが添えられる。
苦いキモも入ったサザエのつぼ焼き。
姫ナスの浅漬け、モツ煮、レバ刺し。

僕らはもう狂乱の態となって注文しまくる。
だって、出てくる物全てが美味いんだ。

ビールを2杯、程よい温度の吟醸酒は何杯呑んだろう。
薄暗く居心地の良い空間、ちょうど良い大きさの店。
そして店主はとても感じが良い。
人見知りをする僕が、初対面の彼と酒を酌み交わした程なのだから。
やはり居酒屋は自らが調理する個人経営の店に限る。

店を新しく開拓するのは難しい。
そしてその店が気に入る事は余り無い。
でも、今夜酔ったこの店はこれからも何度も入る事になるだろう。

店に入る時、西へ傾いていた月齢4の上弦の月は沈み、いて座が南中する頃帰宅。
もう夜の空はすっかり夏。







 

06/6/27 (火)  ジロー

曇り。
朝から気温も湿度も高く、寝汗をかいて目が覚める。
犬の散歩と亀の餌やり。
先日産卵したメダカの卵を観察してから車で出かける。

   

早朝の、まだ誰も居ない畑は気持ちが良い。
トウモロコシには花穂が出てきている。
ナスもトマトも沢山の花をつけ、里芋は葉に夜露をため、男爵は収穫を待つばかり。
2センチほどのチビキュウリにそっと触れ、棘の感触を楽しむ。
まったくこの時期の畑は、喜びに溢れている。


M宅で少しボンヤリしてから2人で「二郎」へ行く。
東京・三田に総本山が有る有名なラーメンチェーンだけれど、今まで一度も食べたことが無かったんだ。

あれはラーメンではなく、二郎と言う食べ物だ。
一見の客を寄せ付けないほど熱狂的なジロリアンと呼ばれるファンに支えられている。
その麺の量と凶暴なスープは大好きになるか大嫌いになるかの双極だ。
まるで呪文のような注文の仕方で、味の濃さも麺の固さも、野菜や油の量も思いのまま。
でも、そのカスタムオーダーを入れるタイミングが有り、店主との目線のやり取りが必要・・・

「ラーメン二郎」で検索すると次々に出てくるそんな伝説に怯えながら行って見た。
M宅から車で20分ほどの、先日開店したばかりのお店。
開店10分前で20人ほどの行列が出来ていたけれど、それほど待つことも無く席へ着けた。
前もってネットで勉強した通り、注文。
麺は固め、ヤサイ多めでニンニクは抜きだ。

開店したてと言う事もあるのだろうけれど、マニアの巣窟と言う感じも無く一安心。
出てきたラーメンも、富士のごとくそびえるヤサイを除けば普通に美味しいラーメンだ。
自家製麺のモチモチした太麺が美味い。
地理的に近い事もあって、今後何度も通う気がする。
僕もジロリアンになるのだろうか。

その後映画を見る。
久しぶりに見終わった後、良い気持ちになる映画だった。






夜、Mは職場の勉強会。
僕はジム。
ただ美味しいビールを飲みたいがために、ひたすら走る。
10キロ走るのに必要な1時間の間、昼間見た映画のような場所に住む事が出来たら、僕はどう暮らすだろうと言う事ばかり考えていた。
きっと楽しく暮らせるだろう。
外で空ばかり見ているかもしれない。

夜はビール。
渇いた体が何本ものビールを欲する。
そのビールの酔いが眠気を連れて来るまで呑み続けよう。
まだまだ夜はこれからだ。






 


 

06/6/26 (月)  職場飲み


早朝、夢の中で雨垂れの音を聞く。
薄く開けた窓から感じる雨の気配。
夜明けの薄明かりの中、暫く目を閉じたままで雨の音を聞く。

濃厚な水気。
7時、雨は止んだけれど水の粒が大気中に充満する。
そんな中、自転車で出勤。
7kmペダルを漕いで、体中シットリと濡れて職場へ着く。
暑くは無いのだけれど除湿しなくては我慢できずに空調を入れる。
癖の有る髪の毛がグシャグシャで嫌な気分。

コンビニのざる蕎麦で済ました昼食の後、職場内の勉強会。
会議室のスクリーンの前に立ち90分間、感染予防についてしゃべる。
満席の人いきれで、ジットリと淀んだ空気。
愛用のレザーポインタはどこかへ行ってしまい、パワーポイントは上手く動かず、何度も内線で中断され。
やる気の起きぬまま時間が過ぎる。
しかし、せっかく作った資料の上に突っ伏して熟睡する輩が多いのには本当に嫌気がする。
名前を呼び、質問攻めにしてやりたい衝動に駆られる。
夜遅くまで苦労して作った資料を枕にするんじゃねーよ。

グッタリと疲れて会議室を出る。



定時で職場を出て、自転車を漕ぐ。
職場内で親しかった人の送別会だ。
彼女は非常勤だったこの職場を辞め、正職員として他の職場へ移るんだ。
僕の秘書的な仕事まで色々と助けてもらう事が多かった。
だから、今夜の会は是非出たかったんだ。

でも、店に揃っているメンツを見て駄目だと思った。
こういう場で必ず泥酔し、持論を展開するオジサンが2人も居るのだ。
職場の主のような2人だ。
ああ、せっかくの送別会だったのに。

案の定、送別会だと言うことも忘れ、職場の愚痴大会になる。
弱い癖に飲むものだから、その2人の独壇場になり、他の人はただその話を聞くだけ。
職場の飲み会に有りがちな、そんなツマラナイ会になってしまった。
他の話題に変えようとするも無力で、酒も食事も進まず何度も時計を見る。

結局、僕は卑怯にも中座して一人先に店を出る。
彼女とはまた呑む機会が有るからだ。




   


地元駅前。 地階にあるいつものバーに逃げこんだ。
この店は空調が良く、串焼き屋の煙の中で汗をかいていた先ほどとは雲泥の違いだ。

こんな時は、スノースタイルのソルティードッグが呑みたい。
この店のソルティードッグはウオッカの量が多いのかキリリと背筋が伸びるような味だ。

今日は疲れたな。
月曜夜の、まだ早い時間のバーは他に客も無くとても静かだ。
こんな時ばかりは煙草が吸いたくなる。
もう止めて随分長い時が経つけれど、当時吸っていた、あの香りの良いPEACEを吸ったらきっと気分が良いだろうな。

オイルライターの匂いやフィルターの感触、そしてあの紫煙の香り。
もう吸おうとは思わないけれど、この店のカウンターで文庫を読みながらタバコを吸っていた頃が懐かしい。
今夜座っている壁際のこの席は、あの頃も気に入りの場所だった。
あの頃は、Mとは違う人が僕の隣に居たっけ。
もう何年前になるのだろう。
光陰は矢のごとし。

明日は仕事休み。
前線の影響で曇り時々雨の予報。
早くも夏空が広がる沖縄が羨ましい。







 

 

06/6/25 (日)  落花生発芽する

くもり。
日曜の朝7時にはもう畑に居るこの勤勉さ。
職場でのグータラ加減を知っている人が見たら目を疑うだろう。
梅雨の合間の日曜日、少しも無駄には出来ないのだ。

   

先日播種した落花生は可愛い芽を出している。 50株ほどの落花生は10月頃に美味しい収穫をもたらすだろう。
一週間もあけるとグンと伸びてくる雑草抜き。
何度目かの枝豆の種まき、時期を外してしまった里芋の植え付け。
トマトの芽かき、ナスの整枝。
島ラッキョウの試し掘りにキュウリの収穫。

長靴と軍手、頭にはタオルを巻いて黙々と作業をする。
湿気を含んだ重い空気。
ジットリと汗をかく。

午後、Mを隣に乗せて園芸屋。
夏以降の作付け計画を練り、肥料など購入。
寝室に置こうと「ヘゴ」の鉢植えも買う。

遅い昼食に石神井公園の「井の庄」で濃厚魚介スープのラーメンを食べた。





えー、導入決まったんだ・・
きっと日本では買えないと思って、今の車を買ってしまったよ。
Mと知り合った頃に乗っていたのはこの一つ前の型で、高速を長距離移動するには最適な車だったな。
青森まで一晩で走ってもへっちゃらだった。
この時代に声高には言えないけれど、大排気量の魅力ってあるんだよな。

発売は秋か。
買うのならV8のクーペだな。
いや、買わないけれど。



夕飯は刺身用の良いイワシを買ってきたのでヌカミソ煮を作った。
他には畑から採ってきたキュウリに味噌を付けたもの、先日掘りあげた男爵を蒸して塩バターで。
試し掘りしてきた沖縄野菜の島ラッキョウは鰹節と醤油をかけて生で。
沖縄の居酒屋でこれを齧りながらオリオンビールを飲んだのはいつの事だったろう。
その歯ざわりと辛味をありありと思い出す。

今夜の酒は愛媛の賀儀屋・純米生原酒。素晴らしい吟醸香だ。

梅雨前線は九州地方に停滞している。
テレビで見る大雨のニュースに、まだ行った事の無いその地を想像する。
空が広そうだな。  夏はきっと素敵だろうな。

二日ほど曇りが続いた東京も月曜からは雨。
すでに大気は雨の匂いに満ちている。
少し風の出てきた夜の空を見ながらビールを飲んでいたら、風の又三郎を読みたくなった。









 

06/6/22 (木)  飽食の日

昨夜からの小雨が続く。
日照不足の影響か、数株植えたバジルはすっかり枯れてしまった。

温室の中で、ランポーという名のサボテンが咲く。

   
   



昼間からMと酒池肉林に耽る。
大量の中華料理を並べ、ビールを何杯も飲み干す。
集中的に体重を落とした反動が来たんじゃないのかと心配になる程の食欲。
油気と濃い味が堪らなく、ワシワシとかき込んだ。

その後昼寝。
いつの間にか雨は止み、雲が切れていた。

夕方、本屋で数冊の文庫と新しいロードマップ、スーパーで食材の仕入れ。
園芸屋で植えるには少し遅すぎる里芋の苗と枝豆の種、酒屋で缶ビールとウイスキー。
オイル交換、DVD-R、カフェインレスコーヒー、オランダ水牛で新しい印鑑を作る。
散財の1日。
新しい雨雲が西から流れて来るのを高台でMと見る。

その後、ジムに長居する。
決めたメニューが終わっても機械を占領し続け、大量の汗を流す。
昼間の行いに対する報いとばかり、ひたすらに走った。
ガラスの向こうでまた降りだした雨が、街灯に反射して光る。

夜は早くに寝た。




 

 


 

06/6/21 (水)

   

夏至。
朝から霧のような雨が降る。
去年こぼれ落ちた種から自然に芽吹いた向日葵が咲く。
その黄色の花弁は梅雨の雨に打たれて元気が無いけれど、もう少しの辛抱だよ。
やがて、あの夏がやってくる。

 

 

 

 


 

06/6/20 (火)

   

さくらんぼ酒を仕込もうと、沢山のさくらんぼを買って帰る。
その可愛い形を見ているうちに、一粒、また一粒と食べてしまう。
とうとう、全部食べちゃったよ。

東京は梅雨の合間の曇りの日。
スイカに黄色の花が咲く。

 


 

06/6/18 (日)  梅をとる


雨降り。
それでも雲は薄く、明るい朝。
濡れても良い服を着て、早朝から庭へ出る。
まずは、梅の収穫からだ。

ウッカリしていた。
今年、これほど沢山の実が梅の木に付いているとは思わなかった。
もう老木で、幹には大きな空洞が出来、いつ枯死するか解らない木。
祖母は数十年間も、この木になる梅で梅干を作ってきたんだ。
ここ数年は数キロしか収穫できず、今年は確認もせずに和歌山農協へ完熟の梅を発注してしまった。

ところが梯子をかけて登って見れば大粒の素晴らしい実が鈴生り。
計15キロを収穫したけれど、手の届かないところにはまだ沢山の実が付いていた。

間もなく届くだろう南高梅は梅干用だ。
今日取った梅からは梅干を作ろうか。
ブランデーで1瓶、日本酒で1瓶、りんご酢で1瓶。
りんご酢と氷砂糖で漬けた梅は、炭酸で割って飲むと最高に美味いジュースになる。

それでもまだ8キロほどの梅が余ってしまい小分けに袋積めし、ご自由に、とメモを付けて門の前に置いておいた。
あっと言う間に無くなったけれど、どこかのお宅で美味しい梅酒になるだろうか。

この、ご自由に、をよくやる。
種を蒔きすぎた野菜の苗や、生まれすぎたメダカの卵、そして堆肥の中で沢山見つけたカブト虫の幼虫。
道端で知らない人に有難うを言われたり、それはそれで嬉しかったりする。





   



実の付いた一枝を出窓に飾った。
ほのかに良い香り。



やまない霧雨の中、ブドウの摘果。
ジャガイモを数株試し掘りし、バケツに一杯ほどの収穫。
すっかりトウダチしてしまった大根の堀り上げ。
トマトの芽かきと落花生の播種。
キュウリの収穫。
雨の中、傍から見たら辛そうに見えるかもしれないけれど、これは僕にとって至福の時だ。

午後、Mと散歩をする。
朝とは違う黒い雲から大粒の雨が落ちる。
道路際でタチアオイが真っ赤な花を開く。
夏至が近い。




夜は蒸かしたジャガイモに塩を付けて食べた。
極めて美味し。

明日は不安定な天気。
気温も上がり、雷が期待できるかもしれない。









 

06/6/17 (土)  酒の日

仕事を定時で終え、職場を飛び出る。
今にも降り出しそうな雲の下、自転車で吉祥寺へ向かった。
今夜は年に1度の日本酒利き酒会だ。

2000あると言われる日本酒蔵の1割がこの6年以内に廃業している。
大手が作る粗製濫造された酒の陰で、古くからの小さな蔵が無くなっていく。
1200年続いた日本酒は今、存亡のときだ。

だから、我々が美味い酒を呑み、皆にその美味さを伝えなければ。
なんて真面目な話をしたのは最初の数分で、あっと言う間に美酒に酔っていく。
日本中から杜氏が銘酒をもってこの場に集まっているんだ。

   

上半身裸で気合を入れているのは、広島・宝剣酒造の杜氏、土井氏。
会場は爆笑。
若くして蔵を継ぎ、次々と賞を取る日本酒界のスター。
全国利き酒選手権の優勝者でもある。
そして僕は、彼の作る酒が大好きなんだ。


蔵人と話をしながら、その人の造った酒を呑む。
どれだけ呑んだか解らない。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行く。
でも11年続いたこの集まりは、今回で終わりなんだ。
開かれるたびに赤字を出す会だから仕方が無いけれど、作り手と話す貴重な機会が失われるのは残念でならない。
規模を縮小してでも続けられないか。
自分に出来る事は手伝うけれど。

深夜、強い雨の中帰宅。
明日も雨か。
梅の収穫、落花生の播種、葡萄の摘果。
やりたい事が沢山ある。
雨に濡れるのはキライではないから、きっとびしょ濡れでもするだろうな。
犬も一緒に濡れてくれるだろう。

 

 

 


 

06/6/16 (金)  鎌倉へ紫陽花を見に

活発な前線の影響で、昨夜から大粒の雨。
大雨洪水警報の出る中、Mと鎌倉へ紫陽花を見に行く。

雨の金曜の朝の、酷い渋滞にはまる。
自宅から第三京浜の玉川ICまで裏道を駆使して2時間。
夜なら45分の距離だから、いかに言語道断的な渋滞かが解る。
高速に乗ってしまえば鎌倉最寄の朝比奈ICまではアッと言う間だから、感覚的には全体の3割の東京区間に8割の時間を喰われている感じだ。
都心の渋滞は、もう飽和状態だ。

朝比奈から切り通しを抜けて鎌倉入りし、鶴岡八幡で左折。
段蔓を横目に滑川まで下り、由比ガ浜へ出る。
いつも渋滞している国道134号は奇跡的に流れていて、気持ちの良い道を窓を開けて流す。

濃厚な潮の匂い。
いつの間にか雨もやんでいた。
にび色の海。
ボードに浮かぶサーファーたち。
強い風にけむる沖。




某大学の保養施設の前を通る。
鎌倉ハウスと言う名の施設で、学生は一泊200円で泊まる事が出来た。
そこの学生だった僕はこの施設を根城に、あの頃の夏をこの周辺で過ごした。
逗子、葉山、稲村ヶ崎、江ノ島。
沢山の思い出が有り過ぎて上手く口にする事が出来ず、Mには何も話さずに通り過ぎた。
夜の海であげた花火の煙や、ジリジリと焼ける午後のアスファルトの匂いまで良く覚えている。

江ノ島の駐車場に車を入れ、腹ペコな僕らは食事をする。
来る度に入る店で、煮魚定食とシラス丼定食、シラスのかき揚げにビール。
夕方まで車の運転はしないので、ビール一本位は許されるだろう。
酒を呑むようになってからシラスの価値に気付いた。
淡い塩味で強く主張せず、柔らかく食べやすい。
酒の肴にこれほど良いものは無い。
だから、シラス漁の有る所へ行くたびに、採れたてのシラスを食べて唸る。
スーパーで買うシラスとこれほどまでに違うのかと。
今日も上等なシラスを堪能しながら、うーむ、うーむと唸っていた。

食後に江ノ島の路地を歩く。
迷路のような路地を抜けると、目の前に海が広がったり。
行き止まりの道の端で猫達が集会をしていたり。
江ノ島と言うところは裏路地が面白い。
機嫌よく、随分長く歩いた。

   

江ノ島から江ノ電に乗って極楽寺で下りる。
新しいビーサンの靴摩れと戦いながら坂の街を歩く。
極楽寺、成就院、長谷観音。
雲の間からさす陽射しが強く、湿度も高い。
ジットリと汗をかきながら歩く。
Tシャツ、半パン、ビーチサンダル。
これまでも、そしてこれからも変わらないだろう夏の姿で歩く。

長谷観音には初めて行ったのだけれど、巨大な観音様にも紫陽花山の素晴らしさにも驚いた。
線香の香りと、蛙の鳴き声。 そして陽を反射してキラキラ光る由比ガ浜。
高台から長い事、海を見た。




   

この時期、紫陽花の写真は沢山出るので、長谷寺の斜面で咲いていたイワタバコの花。


 

夜、最上等の吟醸酒を呑む。
肴は生シラスだ。
江ノ島から生シラスを持ち帰るために、自宅からクーラーボックスと保冷剤を持っていったんだ。
生姜醤油で食べる生のシラスは喉越し良く、小苦さと旨みを残し酒と共に消えていく。
今夜もまた、気象通報を聞きながらチビチビと酒を頂く。

明日は忙しい一日になりそうだけれど、そんな事はどうでも良いや。
今は美味い酒と静かな時間が有ればそれで良い。
明日の事は明日思えば良いんだ。


 


06/6/14 (水)  煮魚を喰らう

曇り時々晴れ。
最高気温26度。 湿度が高い。
池の端に植えた菖蒲の蕾が膨らむ。

眠気と戦いながら仕事。
どうも僕には眠りの周期があるようで、ほとんど明け方まで活動し短い睡眠時間でもへっちゃらな時期もあれば、
寝ても寝ても寝たりず、眠気を昼間まで持ち越す時期もある。
今は後者の時で、夜は良く眠るし朝が辛く昼間も眠気を引きずる。
なんだか一日中、欠伸をしていた気がする。
とにかく眠いんだ。

昨日の会議で決まった事に対する苦情を聞く。
立場上、アチコチ関わらざるを得ず4つの委員を兼任している。
その一つ、安全衛生委員会と称する会議で、職場建物内での全禁煙を決めたのだ。
反対を押し切ったのは僕で、それがバレたらしい。 (委員会内にスパイがいるようだ)
以前は僕もヘビースモーカーだったから、苦情を言う人の気持ちは良く解るし、職場の居心地を悪くするつもりは無いけれど、
受動喫煙の事も考えてみてもらいたい。
ましてやアンタ、医者じゃないか。
不毛な話しにグッタリとし、仮眠室で昼寝してやった。

昼は緑のたぬき(SBショウガを入れて)
おやつに100均で買ったグレープフルーツ。
いつも差し入れしてくれる事務の人がお休みで、何となく寂し。




   

仕事帰りにジム。
週の真ん中はみんな気持ちが緩むのか、マシンルームはガラガラで居心地良し。
iPodで昔の「筋肉少女帯」を聞きながら走る。
他に誰も居ない風呂で泳いで、マッサージを受けてボンヤリとヨガのクラスを見て。
面白そうだな。  今度、初級ヨガのクラスに出てみようかな。

「いなげや」で買い物。
ムッチリ肥ったアジが美味そうだから買ってみよう。  他にはもやし、ショウガ、柚子コショウ、豆腐、海苔。
今日は自転車なので酒屋で試飲しまくり、酸・苦・旨のバランスが際立つ愛媛の「賀儀屋」純米吟醸無濾過生原酒を一升。
すこし疲れて帰宅する。

刺身でもいけそうなアジだったけれど、上等な純米酒をゆっくり味わいたくて煮魚にしてみた。
濃い味があまり好みでは無いので醤油と味醂、生姜でさっと煮る。
極めて美味し。
自宅で改めて飲んでみると、「賀儀屋」は実に深い酒で、これだけ出来の良い酒だと酔う訳にはいかぬ。
酔ってしまえば味が解らなくなるからだ。
アジをほぐしながら、チビチビと楽しむことにしよう。

あっ、気象通報の時間だ。
明日は天気下り坂。
いよいよ東京に梅雨が腰をすえてやって来る。


 

 

 


 

06/6/12 (月)  進路の事

低い雲。
1年のうちで最も昼間の長いこの時期だけれど、こんな日は薄明もわずかな夕暮れ。
ニガウリに黄色い花が咲く。

仕事を終えて、M宅へ行く。
Mの長女と、進路の話しをするためだ。
Mと娘はとても仲が良いけれど、勉強や進路などの話しはあまりしないようだし、僕から話した方が良いらしい。
珍しくMにそんな事を頼まれて、10キロの道程を自転車で行く。
車かバイクで行けば良いものを、ビールを呑みたいばかりにペダルを漕ぐのだから我ながら笑ってしまう。

Mは新聞を読み、下の子達はテレビを見ている。
僕の隣では娘が書類を読んでいる。
僕が揃えた進学の資料だ。

この子を小さい時からずっと見てきて、その優しい性格を知っているからこそ薦めたい仕事がある。
看護婦だ。
きっとこの子は良い看護婦になるだろうと確信している。
でも、母親の激務を間近に見て育った娘は、看護の仕事に不安を感じているようだ。

看護婦の仕事の事。病院と言う職場の事。勉強の事。
ずいぶんと長い時間、話しをした。
娘も思っている事を色々話してくれる。
まだ決めるには時間が有る。
あとはじっくりと自分で考えて見て欲しい。
とりあえず、夏休みに看護大学のオープンキャンパスへ行こうと約束をした。

難しい話しを終えて食事。
Mが作った揚げたてのトンカツとビールだ。
娘が先日行った高校の合宿の話しを聞きながら、気持ちよく酔った。





深夜、自転車に乗り帰る。
霧のような雨。
すこし風が吹いている。
どこかに水路でもあるのか、盛んにカエルが鳴いている。

坂の多い道を50分かけて自宅へたどり着いた。
熱い風呂、そしてまたビール。
少し酔った頭で、Mの娘の看護婦姿を想像して見る。
あんな看護婦さんのいる病院ならちょっと入院しても良いな、なんて思った。
いくつかの選択肢に中に、看護の道を含めてくれただろうか。

雨の夜は静かだ。
今夜はよく眠れそうな気がする。

 



 

06/6/11 (日)

   

朝6時から葡萄の手入れ。
巨峰もマスカットも沢山の花を付けたのだけれど、十分の一程度にまで摘果しなくては食べられる実にはならない。
ハシゴを掛けてせっせと働くも、予報外れの雨降りで中断。
家へ避難する。

犬のブラッシング、ヌカミソの手入れ、昨夜梅酢に漬けたショウガとミョウガを引き上げて、新たにキュウリを漬ける。
さいのめに切ったトマトにオリーブオイルと塩をかけて朝食。

ああ、しまったなあ。 
今年は味噌を仕込むの忘れていた。
秋まで仕込みは出来ないし、仕込んでも一年は食べられないし。
痛恨だけれど、暫く市販の味噌で生活しなくては。

今、朝の9時。
これから車のフィルム屋さんで夏対策に透明断熱フィルムを施行してもらい、その足でM宅。
先日買った冷蔵庫が届くはずだから、それを見に。
その後子供達と食事、天気しだいでは畑に枝豆の種まき。
梅酒の材料になる日本酒の準備と、梅干用の漬け樽の準備。
バイクのオイル交換もしたいし、日曜日は平日よりも忙しい。

 

 


 

06/6/9 (金)

   


東京に梅雨がやってきた。
雨に濡れてムラサキツユクサが咲く。
紫の花は、雨の中で一際美しい。

今年もまた、紫陽花を見に行こう。
あの年、開放されたくてすがりに行った東慶寺でMと見た紫陽花は、もう咲いたろうか。




 

06/6/8 (木)  梅の季節

梅雨入り前の貴重な晴れの日。
自転車で出勤。
職場まで自転車で行かず途中にある駅の自転車置き場へ駐輪し、そこから歩く。
こうすると、通勤往復の運動量は自転車12キロ、徒歩4.5キロだ。
履き慣れたミズノのランニングシューズが気持ち良い。

職場の部屋でコーヒーを飲みながらネットで新聞を読む。
なぜか朝から怠惰な気分だ。
来週初めから忙しくなるだろう予定表を見ながら、今日はのんびりしようと決め、試薬の発注などしながら過ごす。
昼に緑のたぬきと100均で買った萎びたグレープフルーツを一つ。

午後、広い机にデータ用紙を広げたくて応接室へ篭る。
この部屋にはシングルベッドほどもある机が置いてあるんだ。
先日入替えたばかりの新しいソファが気持ち良い。
案の定、細かい数値の入ったデータ用紙を見ているうちに意識が薄れ、そのまま1時間も眠りこけた。
目が覚めた後も頭はスッキリせず、なんだかボケッとしたまま窓の外に巣を作るツバメを見ていた。

仕事帰り、ジムに2時間半ほど滞在。
いつものメニューを淡々とこなす。
ここの広く快適な風呂に慣れてしまうと、自宅の風呂に入る気がしなくなるな。

 




   

夜、犬と遊び、孵化中のスズムシの卵に霧を吹き、まもなくサナギになるカブトの幼虫を観察する。
メダカに餌をまき、亀を懐中電灯で照らし、温室に植えたスイカの苗に木酢液をかける。

いつの間にか厚くなった雲。
空気には、はっきりと雨の匂いが混じっている。

先日、ヌカミソカラシとビールで活を入れたヌカミソが良い芳香をだしている。
その中からキュウリとキャベツ、ミョウガを掘り出す。
ワサビの芽を醤油漬けにしておいた物も少し刻む。
海苔を焼く。
豆腐を切る。
酒の準備だ。

呑みながら、間もなく来る梅雨の事を考える。
梅雨か。 
いつもその時期をどう過ごしていたかな。
そこで、大切な事を思い出す。
梅雨と言えば梅干仕込みの季節じゃないか。

いつもは近所の八百屋さんで予約をする完熟の梅だけど、今年は直接産地から買ってみよう。
完熟南高梅大玉1キロ1200円、送料無料というのを見つけ5キロ発注。
これは柔らかくて美味しい梅干になる。
それとは別にカリカリの小梅も漬けようか。
自宅になる梅の実は日本酒で漬ける梅酒にしよう。
去年作ったお酢で作る梅ジュースも美味しかったな。

酒を呑みながら、そんな楽しい想像に浸る。
その足元で丸くなって眠る犬のイビキが、静穏な時間を尚更に感じさせる。
明日は雨。





 

06/6/7 (水)

   

予報は外れ、思いがけず青い空。
片雲が流れて飛んでゆく。

高層階の部屋でMと昼寝をする。
夕方、ネオンの海から気だるさを引き摺って帰宅。

夜、ウイスキーを飲みながらDVDで「ジョゼと虎と魚たち」を見て少し泣いた。

 


 

06/6/5 (月)  気象通報

   

月初めの月曜日。
1時間早出、昼食無し。
常用している胃薬の在庫が切れたため、クリニック受診の必要があり残業は少しだけ。
ナイター診療締め切りギリギリに飛び込む。

伸びた髪が鬱陶しくいつもの床屋へ行くも、何故か子供達で溢れており退散。
部活の子が集団で切りに来たのだろうか。
駅前で好物の「麩まんじゅう」を買って帰る。





小中学校の頃、ずっと読んでいた「天文と気象」という雑誌の影響で大気の様子がいつも気になる。
星の情報を手に入れるために貪り読んだ雑誌だったけれど、やがて気象分野にも興味を持ちはじめたんだ。
雲の写真ばかり撮ったり、低気圧の等圧線にドキドキするような子供だった。

小5の夏休み、空き缶とキッチンの計りで自作した雨量計は大失敗だったけれど、
天気図で作ったパラパラマンガは気圧の動きがアニメのようによく解ると大好評。
そして大人になった今でも、あの頃と同じように空を見上げる事が多い。

ラジオのNHK第2放送で1日に3度放送される気象通報。
22時から20分間放送される夜の回をよく聞く。
あの平板な口調が淡々と告げる観測地の風速、風向、天気、気温、気圧。

知らない地名にその場所を想像したり、「入電無し」の報にその理由を考えたり。
それを流しながら酒を呑んでいると、不思議と気持ちが落ちついてくる。
今ではネットで最新の天気図を簡単に見る事が出来るけれど、すこし雑音の混じるラジオからの気象通報を聞きながら、
はるか上空の大気を思うのは何だか良い気分だ。




夜、もうちょっとだけ呑みたいという時にイタリアの酒、グラッパをよく呑む。
これはワインを搾った搾りかすを発酵させた蒸留酒で、蒸留しているのに葡萄の香りを残す。
僕がよく飲んでいるのはマスカットのグラッパだ。
透明で度数が高く、良い香りの酒。

今夜も気象通報を聞きながらグラッパを呑む。
眠くなるまで呑んでいた。

明日は曇り。
梅雨がすぐそこまで来ている。


 


 

06/6/4 (日)  少しだけ収穫

曇り時々晴れ。
最高気温は21度。

久しぶりにゆっくりと畑で過ごす。
5月の天候不順から、やがて梅雨へとうつり行く合間の貴重な日曜日。
草むしり、大根の間引き、ジャガイモの土寄せ、トマトの芽かき。
気持ちの良い汗を流す。
畑って、何て気分の良い場所なんだろう。

   

今日の収穫は試し掘りのジャガイモ、カブ、間引きの大根、そして大量のソラマメ。
12月8日に発芽したものだから。収穫まで半年か。
随分と世話をやき、寒波に打ちのめされ、害虫の被害も甚大だったけれど、今日やっと収穫まで漕ぎつけた。
慣れない野菜は苦労するものだけれど、今回初めて作ってみたソラマメは何度も諦めようとしたほどの問題児だった。
その分、収穫の喜びはひとしお。
野菜つくりの喜びはそこにある。



夜、Mがワラビを持ってきてくれる。
金曜日に行った温泉で沢山のワラビを手に入れたのだけれど、Mはそれを油炒めにしたんだ。
僕の作ったオヒタシと交換し、互いに食べて見ることにする。

他には大根、カブ、ジャガイモ、炒めたカブの葉を入れた、ごった煮状態の味噌汁。
ソラマメ塩茹。
やはり金曜に温泉から買って来たタケノコの煮物。
知らない人が見たら質素に見える食事だけれど、僕にとってこれほど豪華なモノは無い。
そして、こんなモノをつまみながら呑む酒がまた美味い。
夕方買って来た酒は開春流霧。 最高の吟醸酒だ。

美味いツマミと酒。
それに読みかけの本があれば申し分は無い。
たとえ明日は月初めで最高に忙しい月曜日になることが解っていても、今この時間は上機嫌だ。

 

 


 

06/6/2 (金)  温泉の日

雲の多い日。
それでも時折、その合間から明るい陽がこぼれる。
朝6時に起きたときの気温は19度。
やや湿度が高い。

ここ暫くの疲れを取ろうとMと温泉へ行く。
こうしてまたMと出かけられる。
そんな当たり前と思っていた行為にも、感謝の気持ちを覚える。
神様、ありがとう。





   

いつもの温泉だ。
高速を30分、そして険しい峠道を30キロ。
山間の集落を結ぶ峠道は気持ちの良いカーブが続く、僕の大好きな道だ。
2速9000rpm。
誰にも迷惑にならなさそうな場所で全開にした車は、咽び泣くような素晴らしい音を出す。
チタンで作られたTRUSTマフラーの音がこだまとなる。
平日午前の早い時間。
目的地へ着くまでの間、殆ど対向車の無い峠の道で気持ちの良い汗をかいた。

   

10時。
まだ誰も居ない露天風呂。
竹垣の向こうのMと話しながら長湯する。
女風呂も他に誰も居ないのだ。

蕎麦の植えられた畑。
山肌を流れ落ちてくる雲。
うぐいすの鳴き声。
気持ちの良い風。
その瞬間の幸せを満喫する。
なんて気分が良いんだろう。

朝から何も食べていない腹を抱え、ビールを飲む。
今日は醒ますための時間が充分にあるから、ビール一本くらいは許されるだろう。
冷たいビールが体に染み渡る。

食事にしようか。
桑の葉、柿の葉、ヨモギ、ウドの葉、イタドリ。それらを揚げた天麩羅は皆、香りが素晴らしい。
初めて食べた蕎麦の葉のおひたしの優しい味。
フキの油炒めは苦味が食欲を増す、
ざらりと硬い食感のコンニャク田楽にはフキ味噌が塗ってあり、これまた硬い冷奴はとても味が濃い。
ここは蕎麦の産地で、来るたびに美味しい蕎麦を食べるのだけれど、蕎麦と同時に頼んだ粥が事の他美味しい。
ヒエ、アワ、ソバ、コメなどで作った粥なのだけれど、すこし塩をかけて食べるそれは穀物の旨みに溢れている。

少しだけ遠くへ来たという事。
携帯は車に置き去り邪魔が入らないと言う事。
温泉と静かな座敷と、山深い景色。
それらによる開放感が僕らを呆けさせてゆく。
風呂と昼寝とまた風呂と。
時間の感覚は無くなり、ただ脱力し、何も考えず無口になっていく。

タケノコ、ワラビ、ワサビの茎。
それらを直売所で買う。
ふだん人見知りが酷く知らない人と話せないのに、なんでこういう所だとこんなに会話が楽しいんだろう。
農家のお爺さんとのちょっとした会話が嬉しくて仕方が無い。
少しのお金で手に入れた沢山の山菜を、大切に食べようと思う。
腰の曲がったお爺さんが山から取ってくれた山菜だから。

いつもの作り酒屋で生酒を買い帰宅。
たった10時間。
それでも生き返った気分だ。


   


夜、買ってきたワラビで酒を呑む。
本当は茹でたあと一晩水につけアク抜くのだけれど、我慢できずにちょっとだけ。
美味しいな。
この苦味がさらに酒を美味くする。
楽しかった今日を思いながら、眠くなるまで酒を呑もう。

明日の東京は三陸沖の高気圧から流れ出る寒気の影響で冷たい雨。
雨降りの気だるい土曜も悪くない。